薗部産業の工房を訪ねて

2017年4月公開

箱根・伊豆・丹沢の山々に囲まれるように位置する神奈川県小田原市は、
豊かな森や山を背景に、古くから木工や漆器の生産が盛んな土地。
そんな小田原に木工所を構えて70年以上の「薗部(そのべ)産業」は、
小田原漆器から間伐材を使った木工製品まで、幅広く手がける木工メーカーです。
看板商品は、ころんとしたかたちと、6種類の材から選べる楽しさが人気の「銘木椀(めいぼくわん)」。
どのように生まれつくられているかを知りたくて、小田原を訪ねてみると、
薗部産業のモットーである
「無理なく、無駄なく、土に還るまで、木を始末よく使いまわす」
という言葉の意味がすとんと腑に落ちたのです。



 

1.銘木椀のひみつ

日常使いに“ちょうどいい”お椀

銘木椀勢ぞろい

左の3つが「大」サイズ。その他は「中」サイズ。6種の日本の銘木からつくられたお椀。

ぷうっと吹いて膨らませたような、ころんと素朴なかたちが目を引く「銘木椀」。
飽きることなく眺めていられる木目の美しさも、漆器や陶磁器にはない魅力です。
一見、無塗装のように見えますが、食品衛生法に適応した、
学校給食の器にも使用されるウレタン樹脂が表面に塗られています。
そうすることで、水や食材が染み込む心配をせず、気兼ねなく使うことができます。
さらに、食器用洗剤ですっきり汚れを落とせて、お手入れも簡単。

銘木椀 さくら 大

「銘木椀 さくら 大」。

ウレタンは熱に強い塗料。耐熱温度は、なんと150度もあります。
スープや味噌汁を入れるお椀にとって耐熱性は重要ですが、
熱に強くて安全なものというと、漆かウレタンの2種類しかないのだそう。
そのうち透明色で木目を活かせるのが、ウレタン塗料なのです。
日用の器であるお椀は、毎日使うことで
どうしても3〜5年でウレタンが磨耗していきます。
ただ、長時間水に浸さない、すり減りやすい角や縁を強くこすり洗いしない、
など使い方に気をつけていれば、より長く使い続けることができると言います。

お味噌汁

いろいろな器との相性がいいから、食卓に馴染んで使いやすい銘木椀。ほっこりした気分にさせてくれます。

さらに「銘木椀」は、ブナ、サクラ、ケヤキ、クリ、クルミ、ナラの6種類でつくられており、
好みの木を選ぶことができます。

銘木椀の6種類

高台の内側に、木の名前が焼き付けてあるので、何の木なのかすぐにわかります。

6種類の木は、どれも耳にしたことがある名前ばかりですが、
色や木目の入り方、重さの違いまでは意外と知らないもの。
お椀というかたちで暮らしの中に取り入れることで、
それぞれの木の特徴や違いを発見する楽しさもあります。
今まで知ったつもりになっていた木たちと、あらためて出会わせてくれるお椀なのです。

目指したのは、北欧食器に合うスープボウル

外側を削った状態

外側のみろくろで挽いた状態の「銘木椀」。内側はこれから削っていきます。

「銘木椀」が生まれたのは、1996年。約20年前のことです。
同年、優れたデザインに贈られる「グッドデザイン賞」をさっそく受賞。
この独特なころんとしたかたちはどのように生まれたのでしょうか。

薗部利弘さん

社長の薗部利弘さん。

「これからの人は味噌汁をあまり飲まないんじゃ
ないかということで、スープボウルをつくろうという
ことになったんです」と語るのは、
薗部産業の社長・薗部利弘(としひろ)さん。
「北欧食器に憧れがあって。
だけど北欧食器を真似るんじゃなくて、
北欧食器と取り合わせのいい器をつくりたい
というのがあったんです。
それから小田原は、相模湾に面していて
ヨットのセーリングなどで知られる
神奈川県の海エリア・湘南地域に当たるんですね。
伝統があって正統派の“山の木工屋”とは違う
“海の木工屋”ということで、
どんな人でも気軽に使える器にしたいなって。
だからお手入れも簡単にできるもので」。

そこで、長年懇意にしていた
意匠の専門家・蒔苗滋(まきなえしげる)先生に
デザインをお願いすることに。
蒔苗先生は、神奈川県の意匠課職員から、
県の工芸指導所の所長にまでなられた方。
「先生のデザインは、先を見るような、
斬新なものが多かったんですが、
銘木椀もまさに先生らしいデザインで……。
今までに見たことのないかたちでした」。
両手で包むと、手のくぼみにぴたりと沿う、
ぷっくりとした「銘木椀」。
上がってきたデザインを
一目で気に入ったと言います。


「お父さんと同じお椀は使いたくない」?

ブナ、サクラ、ケヤキ、クリ、クルミ、ナラの6種類から選ぶことができるのも、
「銘木椀」の魅力のひとつ。
cotogotoの店頭でも、好きな木目や色を楽しそうに選ぶお客さんの姿をよく目にします。
そのアイデアと、数ある銘木の中からこの6種類をどう選んだのか。
尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。
「お箸と違ってお椀は、誰のものというより家族で使いまわすご家庭も多いですよね?
だけど、年頃の娘さんはお父さんと一緒のお椀を使いたがらないという話を聞いて(笑)。
うちは息子だけなんですけど、娘さんの場合はそういう心理があるんだなと。
だったら6種類の木で差別化して、
家族それぞれ自分用に、好きなものを使うようにしたらどうかなと思ったんです」。
まさか思春期の娘さんへの配慮がベストセラーを生み出すきっかけになったとは、
思いもよりませんでした。

ちなみに、なぜこの6種類になったかというと、
「誰が聞いても名前を知っている木がよかったという単純な話で、
つくりやすいとかで決めたわけでもないんです」と笑います。
選ばれた6種類の木たちは、それぞれどのような特徴があるのでしょう。

銘木椀になっている6種類の木の特徴

  • ケヤキ

    日本の銘木の代名詞ともいえる木。古来から祀りごとなどに使われる器の材として使われてきました。全体に黄味がかった色が特徴ですが、部位による色の違いがはっきりとしていて、皮に近い部分は白くなります。黄と白がはっきりと分かれた模様が出るのも景色のひとつです。

  • ブナ

    6種の中で一際色白な木肌は、さわやかで、ナチュラルな暮らしの器にぴったり。年輪による木目もやさしげです。曲がりやすく扱いが難しいため、昔はモップの柄にしかならないと雑木扱いされていましたが、今は白い木肌が人気で一番高価とも言われています。

  • サクラ

    ほんのり赤みのある木肌は、光沢があり、きめ細かく緻密。佇まいの美しい器になります。小枝も多く渦のような木目が出たり、木の中心部分と皮目の色の違いでツートン模様がはっきり出やすいのも特徴のひとつ。それがまた美しい景色になります。

  • クリ

    美味しい実をつけるだけあって、ほっこりとした美味しそうな褐色の木。重くて堅く粘りがあって水にも強く、家の土台や梁、線路の枕木などに使われてきました。木目が大きいため、割れないように乾燥させるのがひときわ難しい材でもあります。

  • クルミ

    クルミと言うと、黒みがかった焦げ茶色のウォールナットが有名ですが、日本のクルミは、それより少し淡くてやさしい風情。ほんのり紫がかったスモーキーな色味が独特で特徴的です。6種類の中では一番茶色が深く、落ち着いた雰囲気があります。

  • ナラ

    ドングリのなる木。6種の中で一番かたくて重く、手にしたときにずしっと手ごたえがあります。かたいために加工は難しいのですが、その分丈夫なため、家具などにも人気。目の細かな木地で酒が滑らかになると、ウィスキーの醸造樽にも使われています。

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