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FUTAGAMIの工房を訪ねて

2017年8月公開

120年以上の歴史を持つ老舗の真鍮鋳物メーカー「二上(ふたがみ)」が、
デザイナー大治将典(おおじまさのり)さんと立ち上げた
生活用品ブランド「FUTAGAMI」。
真鍮は、適度な硬さとのばしやすさのある金属として、
仏具や美術工芸品、機械の細かな部品に使われてきました。
仏壇が暮らしから消えつつある今、
暮らしの中で薄れていく真鍮の存在感を
新しいかたちで提示したと言えるのがFUTAGAMIです。
独特の魅力を放つ真鍮製品の数々は、
現代の暮らしの中で真鍮を生まれ変わらせ、新たなファンを増やしています。
ブランド誕生の経緯や製品がつくられるまでの工程を見せていただくうちに、
その魅力の理由が見えてきました。



 

1.FUTAGAMIのこと

真鍮の光沢、質感は宇宙的

鍋敷き

「鍋敷き」。左上から時計回りに、「月」「星」「太陽」「銀河」。


栓抜き

「栓抜き」。左上から時計回りに、「日食」「三日月」「枠」。


鋳肌デスクランプ

「鋳肌デスクランプ」。シェードも支柱も土台も、外装のすべてが真鍮製。


鋳肌

ざらりとした細かな粒子の質感が特徴的な表面(鋳肌)。光を鈍く反射して落ち着いた輝きを放ちます。

銅と亜鉛の合金である真鍮を素材にした生活用品ブランド「FUTAGAMI」。
金属の加工には、たたいて成型する「鍛造(たんぞう)」と、
溶解して型に流し込む「鋳造(ちゅうぞう)」という方法がありますが、
FUTAGAMIは、鋳造による真鍮鋳物のブランドです。

鍋敷きから栓抜きや箸置き、カトラリー、文具やランプシェードまで、
扱うアイテムはさまざまな暮らしの道具たち。
そのすべてに共通するのが、
細かな粒子が散りばめられたような表面の質感です。
いわゆる金属ならではの硬さや冷たさとは違う、
いつまでも触っていたくなるようなぬくもりのある肌触り。
これは、鋳造したままの鋳物の表面「鋳肌(いはだ)」を
そのまま活かしているからこそのもの。
光をやわらかく受け止めて上品に輝く様は、
どこか宇宙の鉱物を思わせる不思議な魅力があります。
「星」、「月」、「太陽」、「銀河」、「日食」、「閃光(せんこう)」など、
そこはかとなくロマンを感じさせる商品名もまた、素敵なのです。

箸置き

「箸置き」。下から時計回りに「カトラリーレスト 流星」、「結晶」、「閃光」、「三つ月」「四つ月」、「瞬き」。

落ち着いた真鍮の色味によって、木、ガラス、やきもの、
そしてもちろん鉄やステンレスなど他の金属ともしっくりと馴染みます。

仏具メーカーとして培った技術

つくっているのは、鋳物の街・富山県高岡市にある
真鍮鋳物メーカー「二上(ふたがみ)」。
創業明治30年。120年以上の歴史を持つ老舗です。
高岡で鋳造がはじまったのは江戸時代。
400年以上の歴史があり、現在でも市内に多数の
銅や錫、青銅、真鍮の鋳物工房が存在しています。
そして、鋳造、原型づくり、仕上げ、研磨、着色、彫金など、
工程ごとに特化したさまざまな職人が働いています。

金屋町

石畳と格子戸の古い町並みが残る金屋町。高岡鋳物発祥の地と言われています。

高岡大仏

日本三大仏のひとつ「高岡大仏」。銅器日本一と言われる高岡の象徴として愛されているとか。

銅像

街のあちこちにある銅像。古い町並みに独特な雰囲気を生み出しています。

風鈴

歩いていると、いい音色が。よく見ると、どの軒にも銅製の風鈴がかかっていました。かたちもユニーク。

溶鉱炉

金屋町に残された、大正13年から平成12年まで稼動していた溶鉱炉。鋳物の街として今に続く歴史を感じさせます。

鋳物の中でも、高岡にはお寺の釣鐘「梵鐘(ぼんしょう)」や仏具のメーカーが多く、
国内シェアは90%以上。
FUTAGAMIの商品からは想像しにくいのですが、
実は二上も、代々仏教の飾りのひとつで、
仏壇に吊り下げる真鍮製の輪形の灯具「輪灯(りんとう)」をつくってきました。
高岡の鋳物産業は、細かく細分化され、
どこが何をつくるかは各メーカーを束ねる問屋が主導。
二上は輪灯をつくってきたことから、素材として真鍮を扱うようになったのです。

輪灯の一部

輪灯のパーツの一部。細かな飾りの部分です。

輪灯の原型

輪灯をつくるための原型。これを元に、溶かした真鍮を流し込む型をつくります。さまざまなかたち、模様の細かさなどが見て取れます。

輪灯にはいろいろなパーツがあり、
それぞれ同じ真鍮鋳物とはいっても求められる性質が違うのだとか。
「大きく分けると2つあるんですが、ひとつは細かい模様を出すこと。
もうひとつは、削っても「巣(す)」と呼ばれる空洞が出ないこと。
ただ、この2つはつくるときのポイントが、
どちらかを重要視するともう片方が駄目になるという風に両極端なんです。
ただ、パーツによってはどちらの性質も求められ、
その割合もさまざまなため、
うまくバランスをとってつくり込んでいくのが難しいところです」
と説明してくれたのは、現社長の二上利博(としひろ)さん。
二上は、輪灯づくりを通してその微妙なさじ加減を培ってきました。

4代目で訪れた新機

4代目社長の二上利博さん

4代目社長の二上利博さん。家業を継ぐ前は、スカイスポーツの仕事をしていたという異色の経歴の持ち主。

現社長の二上利博さんは、4代目。
26歳で二上に入り、32年のキャリアを持つ熟練の職人です。
基本的に分業となっている鋳物づくりにおいて、
原型づくりから鋳造、仕上げまで一通りを
1人で行うことができる人は、そう多くはないと言います。
そして二上から「FUTAGAMI」をはじめた、まさにその人です。

輪灯の一部

スタッフが増え分業が進んでも、まだ二上さんにしかできない作業もあるとか。毎日一緒に工房に立ちながら、若い職人たちへ技術を伝えることにも力を注ぎます。

代々輪灯を手掛け、注文数のピークはバブル時代。
その後は、世の中のライフスタイルの変化などから
需要の陰りを感じはじめた二上さん。
「田舎とかで家に仏壇があれば輪灯もあるんですが、
マンションにはそんなスペースはないし、
これから若い人が家を建てるとなったとき、仏間はつくらないんじゃないかって。
実際需要はどんどん減ってきていて、
ピーク時に比べたら何十パーセントも落ち込むように。
まったく駄目になる前に何か違うこともやり始めないとと、
いろいろと模索していました」。

そんな中出会ったのが、
日本のさまざまな手工業で日用品のデザインを手掛ける
デザイナーの大治将典(おおじまさのり)さん。
2009年1月、それまでの仏具メーカー・二上からはまったく想像できない
新しい真鍮の生活用品ブランド「FUTAGAMI」を
大治さんと共に立ち上げることになりました。

ロゴマーク

FUTAGAMIのロゴマーク。会社名である二上の「二」を、真鍮鋳物づくりの原料である金属の塊「インゴット」に見立てたもの。ブランド名は、今までとはまったく違うものをつくる、という想いを込め、「FUTAGAMI」とアルファベットになりました。

FUTAGAMIアイテムの難しさ

鋳肌

長年手掛けてきた輪灯づくりにはない、「鋳肌を残す」ということ。

新しいブランドFUTAGAMIとしてこだわったのは、表面の質感。
鋳造したままの鋳物の表面「鋳肌」を活かすことで生まれるこの質感が、
FUTAGAMIアイテムの魅力であり、難しさでもあると言います。

鍋敷き

鍋敷き。左から「月」、「銀河」、「星」、「太陽」。

「この4つの鍋敷きの中で、どれが一番つくるのが難しいと思いますか?」
と二上さんから尋ねられました。
型に溶かした真鍮を流し込んでつくる鋳物ならば、
きっと複雑なかたちほど難しいのではと思い「銀河」と答えると、
思いもよらない答えが……。

二上さん

「実は『月』なんです。
『月』をきれいな月にするのが難しい。
鋳物の場合、平らなものの方が難しいんです。
鋳込むときにつく凹凸だったり、色の違いが
そのまま見えてしまうから。
しかも、FUTAGAMIは鋳肌を大事にしているため、
仕上げで表面を削れません」。


長年手掛けてきた輪灯の場合は、仕上げで研磨や着色をするため、
その時点での修正が可能。
ところが、そのままの鋳肌を使うFUTAGAMIアイテムは、
鋳造の段階でつくちょっとした傷や真鍮の色味の違いが許されないのです。
「溶解した金属のことを『湯』と言うのですが、
湯の流れる速度や温度によって鋳肌の細かさや色味などが変わってきます。
均一に湯が流れるよう湯の流れる道をつくったり、
原料である銅と亜鉛の配合を変えます」。
FUTAGAMIの製品は、すべて真鍮鋳物製。
とはいえ、同じように見えて実は、
5種類くらいの配合を使い分けているのだとか。

「栓抜き」の「日食」

「栓抜き」の「日食」。繋がっている枠のようなものは、真鍮を型に流すための湯の道です。表面を削ることができないため、どの部分に湯道をつなげるかも頭を悩ますポイント。

「栓抜き」の「日食」

どうしても湯道との接合部分が鋳肌にかぶってしまうため、その箇所にロゴを刻印してカバー。

また、鋳肌を残す難しさ以前に、
削って成形するのではなく、
型に流し込む鋳物ゆえにできないこともあるのだとか。
「上型と下型があって、原形となる模型を埋め込んでかたちを写すんですが、
最後に模型を取り除きます。
取るときにひっかかったら型が崩れてしまうから、
鋳物の場合模型は、わかりやすく言うと
台形のようなかたちになっていないといけないんです。
その逆のかたちはできないんです」と二上さん。

抜き勾配の説明

原型のかたちが左のような台形なら抜けますが、右のような逆の台形だと型は抜けません。

美しいデザインのFUTAGAMI製品からは、
鋳物ゆえのかたちの制約は感じられません。
「見た目ではわからないですが、実はいろいろな工夫があるんです。
今までとはちょっと違うことをやっているんで、
まったく同じやり方が収まるとは限らない。
そこは今までのやり方をベースに、
アレンジして違うやり方で対応するしかないんです」。
そう語る二上さんに、今までの中で一番難しかったアイテムを聞くと、
笑いながら「全部」と即答。
どのアイテムにもいろいろな試行錯誤があったようです。

FUTAGAMI製品が、どのようにつくられているか、
ひとつひとつの工程を見せていただきました。

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