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美作めんつの工房を訪ねて

美作めんつの工房を訪ねて

2018年6月公開

岡山県北部に位置する美作(みまさか)地域で、
古くから伝わる曲げ物の弁当箱「めんつ(面桶)」。
「美作めんつ」と名づけ、
一度は途絶えためんつづくりの技術を復活させたのが、
木工職人の野間 清仁(きよひと)さんです。
地元で採れる良質な檜と杉を使った弁当箱は、
丈夫なつくりで実用性に優れています。
さらに昔ながらのめんつを踏襲しながら、
今の人が使いやすいようにアレンジを加えています。

暮らしに寄り添い、使うごとにそのよさを実感できる「美作めんつ」。
つくり手である野間さんの工房を訪ねました。




1. 美作めんつの魅力

ご飯が美味しいお弁当箱

美作めんつ お弁当箱

▲自然素材でできたお弁当箱は、どんな食材も美味しそうに見せてくれます。
「美作めんつ 小判型 600」を使用。

子どもの頃、お弁当の時間が何よりの楽しみだったという人は少なくないはずです。
大人になっても、美味しいお弁当は1日の大きな活力になります。

つくったお弁当を、少しでも美味しく保てたら。
そんな願いを叶えてくれるのが、白木を曲げてつくったお弁当箱です。
今では「曲げ輪っぱ」という名称が有名ですが、
元々は「めんつ(面桶)」とも呼ばれていました。
木のなかでも比較的柔らかい檜(ひのき)や杉などの針葉樹を曲げて筒状にし、
桜の皮などで綴じ合わせ、底と蓋をつけて仕上げます。

無塗装でつくられた曲げ物の弁当箱は、木が持つ調湿作用により、
ご飯が冷めても固くなったり、べちゃついたりしないのが魅力。
さらに檜や杉は抗菌作用があり、お弁当の美味しさを守ってくれます。
そして蓋を開けると爽やかな森の香りが溢れ、
心まで優しく満たしてくれるのです。

美作めんつ お弁当箱

▲檜と杉という2種類の木材を使うことで、さりげないツートーンに。「小判型 550」を使用。

そんな曲げ物の弁当箱の中でも、
岡山県北部の美作(みまさか)地域でつくられている「美作めんつ」は、
側面に檜、蓋板と底板に杉と、二つの木材を組み合わせてつくられています。
檜は、1300年前に建てられた日本最古の木造建築物である
法隆寺の五重塔にも用いられるなど、
昔から丈夫で、耐久性のある木として知られてきました。
そんな檜を側面に使うことで、杉だけでつくられた曲げ物より強度が高くなるそう。
毎日使うお弁当箱として、理に適ったつくりなのです。

木こりのお弁当箱から、みんなのお弁当箱へ

「檜と杉を組み合わせためんつは、
この地域で古くからつくられてきたもの。
かつては山で木を切る“木こり”たちが
愛用していたものなんです」と話すのは、
「美作めんつ」のつくり手である
野間 清仁(きよひと)さん。
美作市で「創作家具工房 木道(きどう)」として
家具製作を行う傍ら、
めんつづくりに取り組んでいます。

野間さんが見せてくれたのは、
自宅の蔵に眠っていたという二つのめんつ。
どちらもかなりの年季が入っており、
一目で古いものだとわかります。
一つは、ご飯が2合は入りそうなくらいの大きさです。


野間清仁さん

▲穏やかな笑顔で話す、野間清仁さん。

古いめんつ

▲野間家の古いめんつ。奥の大きなめんつが「両めんつ」です。

「これは『両めんつ』と呼ばれていて、木こりは身と蓋の両方にご飯を入れて重ね、
朝10時くらいに腹が減ったら半分食べて、残り半分をお昼に食べていたそう。
この両めんつも、側面は檜、蓋板と底板は杉。
これが美作地域での伝統的なつくりなんです」。

実は、古くから岡山県は、西日本有数の木材産地。
とりわけ檜と杉の林が多く、
檜の生産量は何度も日本一に輝くほどです。
全国的には檜と杉の面積割合は4対6といわれていますが、
岡山では7対3で檜が多いそう。

なかでも美作地域で育つ「美作檜」や「美作杉」は、
ブランド材として県内外で高い評価を得ています。
美作の厳しい冬の寒さに耐えて育った木々は、
密度が高く、丈夫。
さらに緻密で美しい木目を有しています。

そんな地元で採れた材を活かしためんつ。
美作でいつ頃からめんつがつくられていたかは
わからないそうですが、山で1日働く木こりにとって、
ご飯をいっぱいに詰めためんつは欠かせないものでした。


檜林

▲野間さんの工房の周りに生えた檜。
首を反り返って見上げても、一体何メートルあるのか想像がつかないくらいの高さです。

しかし時代とともに、めんつの使い手である木こりが減り、おのずとつくり手も減ります。
野間さんが子どもの頃ですら、もう使われているめんつを見かけることはなかったと言います。
そして今から10年前に、とうとう最後のめんつ職人が亡くなり、
受け継がれてきた技術は一度途絶えてしまいました。

美作めんつ お弁当箱 小判型
美作めんつ お弁当箱 丸型

▲写真左が「小判型」(左)と「小判型スリム」(右)、写真右が「丸型」と、サイズ・かたちの展開が豊富。

そんなめんつを、木こりのためのお弁当箱ではなく、
子どもから大人まで誰もが使えるお弁当箱として復活させたのが、野間さんです。
「近所の人に『つくってみたら?』って言われてはじめて、
昔ながらのめんつを活かしながら、今の人たちが使いやすいよう工夫しました。
『こんなサイズが欲しい』『こんなかたちが欲しい』と要望に応えていたら、
どんどん種類が増えちゃって」と苦笑い。
しかし使い手のニーズに合った細かなサイズやかたちの展開こそが、
野間さんがつくるめんつの大きな魅力の一つになっています。

美作めんつ お弁当箱
美作めんつ お弁当箱

▲スリムタイプはサンドイッチを詰めるのに(写真左)、小さめのものはご飯だけ入れて(写真右)と、
食べたいものや量に合わせて選べるのが嬉しいです。

美作でつくられてきためんつということで、名前は「美作めんつ」に。
「美作のような田舎より、都会の方が子どもも大人も
お弁当を持っていく人が多いみたいで、
あたたかみのある木のお弁当箱を喜んでもらえているようですね」と、
「美作めんつ」の広がりに顔をほころばせます。

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