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美作めんつの工房を訪ねて

3. 民藝の心が宿る、実用の道具

美作めんつギャラリー
美作めんつギャラリー
美作めんつギャラリー
美作めんつギャラリー
美作めんつギャラリー


野間さんに案内され、工房に併設されたギャラリーへ。
そこには野間さんが手がけた、大小さまざまな木工製品が。
机や椅子、収納家具などの大きなものから、
細かな寄せ木細工が施されたかけ時計に標本箱、
茶筒や食器、スプーンのような小さなものまで。
めんつと同じ曲げ物である「シェーカーボックス」もあります。

その幅の広さに驚いていると、
「普通の木工の人は、こんなにいろいろなことに手を出さないですよ」と野間さん。
「木に関することなら何でもやってます。つまり何でも屋ですね。
つい興味が湧いて、新しいことやりたくなっちゃって」と笑います。

1960年に、美作市から一山越えたところにある
兵庫県姫路市で生まれた野間さん。
ものづくりをしたいという想いで、
20歳の頃に別注家具の会社に入社。
そこから現在58歳になるまで、
30年以上木工の仕事に携わっています。

美作市に移ってきたのは1994年。
合併して美作市になる前、野間さんの工房のあたりは
東粟倉(あわくら)という村でした。
当時、東粟倉村は「現代玩具博物館」をオープンするなど、
木製を中心としたおもちゃや、そのつくり手を集めていました。
その一環で、おもちゃだけでなく
木工をやっている人向けに、工房をオープン。
野間さんは木工職人として独立し、工房を借ります。

独立後は、無垢材を使ったオーダーメイドの家具を中心に製作。
専門外のものでもどんどんつくって、幅を広げてきました。
そんな中で2016年に興味をもち、
つくりはじめたのが、めんつでした。


鉋をかける野間さん

時代に即しためんつの誕生

復刻した両めんつ

▲奥が古いめんつ。手前はそのめんつを見本に、野間さんがつくったもの。

つくり手がいなくなり、一度は技術が途絶えためんつ。
その復活に、野間さんはたくさんの壁にぶつかりました。
「もう誰もつくり方を知っている人はいなかったからね。
教えてくれる人も、相談する人もいません。
手がかりにできたのは、自宅の蔵にあった古いめんつだけ」。

古いめんつを見本に、同じようにつくってみますが、
なかなかうまくいきません。
「とくに苦労したのは、隙間なく蓋板と底板をはめること。
昔は、ちょっとくらい隙間があいてたって、
基本的にご飯だけ、または梅干やたくわんなど、ちょっとしたおかずを
一緒に詰めるだけだから、漏れちゃうことはないと思うんです。
でも今の人はいろいろなおかずを入れるし、少し汁気があることも。
それが漏れてしまうと、困ってしまいますよね。
だから、漏れないつくりにすることには、すごく気をつかいました」。

野間さん


秋田など他の地域では、曲げ輪よりも大きなサイズの板を、
貼りつけるだけの曲げ輪っぱもあります。
このつくり方なら、何度も板のサイズを微調整して、
曲げ輪のなかにはめる手間は不要。
しっかり接着するだけで、漏れの心配もありません。
それでも野間さんが今のつくり方にこだわるのは、
なるべく美作伝統のつくりを大事にしたいという想いから。

そしてそれ以上に難しかったと言うのが、檜の曲げ加減の調整です。
「杉の曲げ物の場合、型を立てて、それにしっかりと巻きつけるように曲げるのが主流。
でも檜で同じようにやると、どうしても型崩れを起こして、
きれいな小判型にならなくて」と振り返ります。
「お湯の中で曲げてみたり、いろいろ試したけれど、
結局は横に倒した型に巻きつけるように一気に曲げる、
今のやり方が一番上手くできました。
ここにたどり着くまでが長かったな」。

接着


また、接着剤にまつわる葛藤もありました。
お弁当箱に使う接着剤は、安全であることが絶対条件。
しかし、野間さんが納得できる安全性が保証された接着剤が
なかなか見つかりませんでした。

そこで野間さんが試したのは、
炊いたご飯粒を練って接着剤にする「続飯(そくい)」という昔の技法。
「米でつくった続飯なら安全面は大丈夫だけれど、
米を練る作業は想像以上に大変。
おまけに塗りにくいし、耐水性がないから洗えないし。
これじゃあ何個もつくることはできないって諦めました」と頭をかきます。

復刻した両めんつ

▲昔のめんつは続飯で接着されていたため、現代の接着剤と比べると接着力が不十分。
それを補うために、竹串を釘のようにして打ち込んで、板を固定していたそう。

安全で、耐水で、使いやすい接着剤。
意外にも日本製では見つからず、
最終的に野間さんが「これなら」と思えたのは、アメリカ製のものでした。
日本より審査が厳しいとされる「FDA(アメリカ食品医薬局)」の基準をクリアし、
まな板など食品まわりでの使用の安全性が確認されているそう。
「この接着剤なら安全性が証明されているし、
水にも強く、使い勝手もいい。
接着力もすごくて、ちょっと板をはめるのに失敗して外そうとしても、
全然外れなくて壊してしまったことも。
そのくらいしっかり接着できて、頑丈なんです」。

今の美作めんつ

▲余計な飾り気のない素朴な姿は、昔のめんつそのまま。
昔は蓋と身の両方にご飯を入れていたので、たくさん入るよう蓋を深くしていましたが、
現在ではそのような使い方をしないため、蓋の浅いタイプ(左)も製作しています。

約3ヵ月かけてめんつを復活させた野間さん。
漏れずに、安全で、丈夫。
昔ながらのめんつのつくり方を踏襲しながらも、
今の人たちの求めに応じて改良を加えているのです。
元々めんつがもつよさに、野間さんの工夫が加わって生まれた「美作めんつ」は、
少しずつ愛用者を増やしています。

そして2017年には、
暮らしに役立つ工芸品が選ばれる「日本民藝館展」に応募。
見事、出品した「美作めんつ」5点すべてが入選するという快挙を果たしました。
その使い勝手のよさや飾らない美しさが、専門家からも認められたのです。

使ってうれしい、つくってうれしい

乾かしている美作めんつ


現在は、家具製作とめんつづくりの両輪で活動している野間さん。
少しずつめんつの注文が増えてきて、
今では同じくらいの仕事の割合になっているそう。
「オーダーメイドの家具は、ある程度高級だから持つ人が限られるけれど、
お弁当箱はもっと身近なみんなのもの。
持っているだけでうれしい、使って楽しい、お弁当を食べて幸せを感じる。
そんな風にたくさんの人に思ってもらえるものって、
数ある道具の中でもそんなに多くないと思うんです」と、
「美作めんつ」をつくる喜びを明かします。

作業中の野間さん


「美作めんつ」という名を掲げ、地元のめんつづくりを復活させた野間さん。
今後はつくり手を増やし、
もっと「美作めんつ」の知名度を上げたい……。
そんな風に考えているのではないかと尋ねてみると、
「『美作めんつ』の名を広めたいという気持ちはそんなにない」という意外な答えが。

名を広めるよりも、大事なことがある。
そんな野間さんの姿勢は、
「美作めんつ」にサインなどの名前を入れていないところにも現れています。
「『焼印でも入れたら?』って言う人もいるけれど、
なくても何にも問題ないでしょう。
名前よりいい道具であることが大切」という野間さんの強い言葉が響きます。
使うほどにそのよさを実感できる道具をつくることに、何よりも重きを置いているのです。

「日本民藝館展」で入選を果たしているように、
「美作めんつ」は、まさに「民藝品」と呼ぶに相応しいのかもしれません。
名を上げることを目的としない職人の手から生み出された、日常の生活道具である民藝品。
土地の風土から生まれ、生活に根ざし、用に即した健全な美が宿っています。
野間さん自身も、「『美作めんつ』は飾り気なく、実用一辺倒だけれど、
使って人が喜んでくれるもの。
たしかに民藝の心に通ずる部分がありますね」とうれしそう。

この先も、野間さんが1人でつくっていく予定という「美作めんつ」。
「まあ、でも需要があれば、
ゆくゆくは若い人を雇って技術を教えなきゃいかんなあ」と、悠々と笑う野間さん。
これからもその気負わない姿で、人々の求めに応じたものをつくり続けてくれるはずです。

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