3.九谷青窯のこと

九谷青窯のこと

陶芸を志すものの憧れの窯元のひとつとして、全国各地から応募が殺到する九谷青窯。
陶工さんたちの入社理由の多くは、実は「九谷焼」や「色絵」に惹かれてではなく、
「おもしろい会社」だからが圧倒的。
デザインから成形、絵付けまで一貫して行い、
誰もが自分のデザインを商品化できるチャンスがあるだけでなく、
九谷青窯にはユニークな点がまだまだ他にもあるのです。




「九谷青窯にこの人あり!」の主宰・秦耀一さん

色絵花繋ぎ手入り

▶ 九谷青窯の工房は、石川県能美市にあります。工房前にある看板。


九谷青窯は、1971年開窯。
歴史ある九谷焼のお膝元にありながらも、
今までの窯元とは違う斬新なアイデアとやり方で、
陶工を育て、新しい層のお客さんを開拓。
今では、九谷青窯の名前は日本はもとより海外にまで
知れ渡るほどになりました。
その九谷青窯を牽引してきたのが、
主宰の秦耀一(はた よういち)さん。

秦さんが東京から金沢に来たのは、20代後半のとき。
その数年後、縁あって窯元になる決意をします。
作陶経験はゼロ。独学で器づくりをはじめていきました。
当時焼き物といえば、佐賀の有田焼をはじめ、
岐阜の美濃焼、愛知の瀬戸焼、
そして石川といえば九谷焼など、歴史ある産地のものばかり。
でも、「西洋とか中国の器の歴史に比べたら、
日本の焼き物は歴史的にもまだまだ。
そういうのを見ていくと、できるんじゃねえかなって」と
颯爽とおっしゃいます。
ただし「始めた頃から技術では負けると思ってた」からこそ、
他の窯元がやらないやり方を追求していったのです。

秦耀一さん

▶ 九谷青窯を主宰する秦耀一さん。



ひとりひとりが作家として立てる力を育む

絵付け部屋

▶ 成形の部屋。ろくろをひいたり、型を使ってかたちをとる工程を行います。

陶芸の世界では、分業が当たり前。
窯元の他、型をつくる型屋や成形から素焼きまで行う生地屋、
上絵のみ行う上絵屋など、
それぞれの工程を専任の職人が行うことで、
ある程度の量産が可能になります。
それに対して「作家」と呼ばれ、ひとりで活動する人は、
デザインから成形、絵付け、販路の獲得まで自分で行います。
作品を生み出せる量は限られてしまいますが、
自分ですべてをコントロールできるのは魅力的。
陶芸を志す人なら、「いずれは自分の名前で勝負したい」
と一度は思うことでしょう。
とはいえ、作家として世に認められ仕事になるのは
ほんの一握りの人のみというのが現実です。
世の中でどのようなものが求められているかの嗅覚、
さらには、売り手とつながっていく、
陶芸の技術とは別の商才も求められます。

九谷青窯では、早い段階から、
そういった意識を持つことができる環境があります。
上下関係のない陶工同士が、
お互いの作品に刺激を受け合い切磋琢磨することで、
他の作家とは違う個性を育んでいます。

各陶工が何をつくるのか、どうつくるのかは、
ある程度個人の裁量に任されています。
とはいえ、ただの野放しではなく、
必要なタイミングで秦さんからのアドバイスがあるのだとか。
そして陶工さんたちは、
その言葉から学ぶことが多いといいます。
九谷青窯らしい可愛らしい器がつくれないと考え込んでいた
高原さんには、「あんたの雰囲気でやればいい」。
肩に力が入っていた高さんには、「頑張らなくていい」。
器主体に考えがちだった小林さんには「食いもんを知れ」
などなど、言葉は少ないけれど、
それぞれの陶工さんの人と成りをよく見極めているからこそ、
彼らが必要とする言葉を投げかけることができるのです。

トンボ

▶ 成形中、高さや幅をはかるための道具。器ごとにひとつひとつつくります。

型

▶ 器の型。四角いものや、ろくろでひけない変形のものをつくるときに、薄くスライスした土を押し当ててかたちをとります。

顔料

▶ 絵付けに使う絵の具。使うときに、水を混ぜて適当な硬さに調整します。


将来実家の窯元を受け継ぐ予定の小林さんは、
「将来的には九谷青窯みたいなことができればというのは考えています。
若い人たちを雇って自由にできればいいなって」と夢を語ります。
徳永さんも、「秦さんがやろうとしていることって。
次の世代にバトンを渡していくことなんだなって思って、
私も、次の人が作家としてやっていくための環境をつくっていく、
そのほんのちょっとの手伝いができたらいいなと思っています」と言います。
器のつくり方だけでなく、九谷青窯のあり方そのものも受け継がれていくのです。

秦さんは言います。
「若い人と一緒にやっていくほうがいいじゃないですか。一緒に育っていく」。
45年近く窯元を主宰してきても、上からの目線ではなく、
経験の浅い陶工さんたちとも「一緒にやっていく」と思えるその姿勢。
だからこそ、早いうちから自分らしさを見つけ、ひとりひとりがつくり手として立てるよう、
焼き物の世界では異端と思われるやり方を貫いてきたのでしょう。

九谷青窯の器が多くの人を惹き付けるのは、
そんな秦さんのしなやかな姿勢と大きな懐、
それに育まれ作陶する陶工さんたちの瑞々しいエネルギーが伝わってくるからなのです。




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