JICON/磁今の工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ3
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JICONの工房を訪ねて

3. “今村焼”の挑戦


陶悦窯の器


「触ってもらえば分かるけど、めちゃめちゃ薄いんです」と言って
工房の片隅で今村さんが見せてくれたのは、お祖父さんがつくったという3つの器。
手に持ち、光にかざすと手の形がはっきりと透けるくらい薄く、
当時の陶悦窯の高い技術がうかがえます。

実はこの器は、有田焼ではなく三川内焼(みかわちやき)。
陶悦窯は50年ほど前までは、有田町に隣接する
長崎県佐世保市三川内にて窯業を営んでいたのです。
今村さんのお父さんが24歳のときに、12代目であるお祖父さんが
工場拡張のため、有田に窯を移しました。
三川内では藩お抱えの窯元でしたが、有田では新参者。
確かな技術はあるものの、ゼロからのスタートです。

有田にやってきた陶悦窯は、つくっているものを180度の方向転換。
三川内では献上品の流れを汲んだ美術工芸品をつくっていましたが、
より商業性の高い、旅館や料亭に卸す業務用の器を手がけるようになります。
「普通の食器では上手くいかなかったから、
関西の信楽から土を持ってきて、磁器の産地・有田で陶器の土鍋をつくったり、
寿司屋の湯呑みをつくったり、かなり新しいことにチャレンジして、試行錯誤していました。
問屋を通さずに直接売り込みに行ったら、不買運動を起こされたこともあって(笑)」。

そんなお父さんの背中を見て育った今村さん。
いつも好き放題頑張る姿は活き活きしていて、
率直にかっこいいと感じていたそうです。

ウインクする太一くん

▲ウインクをきめてくれた次男の太一くん。機械には絶対に触らないという約束をしているそうですが、それ以外の道具などには積極的に触れて、焼きものの世界に親しんでいるようでした。


現在、今村さんには2人の息子さんが。
取材の日は、次男の太一くんが工房で遊んでいました。
今村さんが子どもの頃も、
工房は遊び場であり、楽しい場所だったそう。
そうして育ったからか、
焼きものの世界に入ることに抵抗はなく、
自然とお父さんと同じ道に進みたいと
思うようになったといいます。

「いつかはもちろん息子たちが
今村製陶を継いでくれたら嬉しいですが、
それは彼らが心から焼きものづくりが
好きだと思えたらのこと。
こちらから継いで欲しいとは
言わないようにしています」。

言葉ではなく、お父さんのように背中で伝えたい。
そう語る今村さんの傍らでは、
「早く粘土で遊びたいよー」と訴える太一くん。
今村さんのように自ずと焼きものの楽しさを
見つけてくれるような気がしてくるのです。


お絵かきする太一くん

▲素焼きの状態で不良があった器をチョーク代わりに、工房の床にお絵かき。

太一くんのポンデリング

▲太一くんがつくった磁器のドーナツ。将来有望そうですが、今のところ夢は「頭の良い人」だそう。

伝統を破る、100年後への挑戦


現在も3ヶ月に1回程度、大治さんが有田を訪れ、
時には酒を酌み交わしながら、
次にJICONに必要なことを2人で考えているそう。
「ここ1年は、今村製陶 町屋にあったらいいなと思って、
いくつかランプを発表してきました。次は考え中」
ということで、また2人が欲しいと思うものが
近々生まれてくるのかもしれません。


今村さんと眞くん

▲今村製陶 町屋の前で、今村さんと眞くん。

誕生から400年を迎えた有田焼についての想いを伺ってみると、
「俺の気持ちとしては、JICONは有田焼ではないと思っています」と衝撃的な発言。
藩の御用窯として名を馳せた三川内焼としての歴史と、
苦労して切り拓いてきた有田焼としての歴史。
その両方をもった今村家にしかつくれない焼きもの、 言わば「今村焼」を大切にしたいと続けます。
「伝統を守るつもりはないです。
今、伝統と言われているものは、きっと100年前の人たちが
精一杯新しいことに挑戦して生まれてきたもの。
そのまま守っていたら、100年後には何も残らなくなっちゃうと思うんです。
だから『今村焼』として、どんどん攻めていきたいです」。

今村製陶は、陶悦窯のように一日に何百もの器を大量生産するメーカーでも、
一点一点全部違うものをつくる作家でもない。
ただ今村さんが素直に欲しいと思えるものを、気持ち良くつくれる量だけつくっています。
「今までになかったやり方だとも言われるけれど、
これからも続けていくことが大事だと思っているんです」と話す今村さんは、
終始、晴れ晴れとした笑顔が印象的。
メーカーか作家かの二択ではなく、はたまた有田焼か三川内焼かの二択でもない。
柔軟な姿勢で、自分の気持ちにまっすぐであることに重きを置いていることが感じられたのでした。
その姿は、JICONの器にも反映され、手にした人の元にも
「正直でうそのない暮らし」が伝わってくるような気がするのです。

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