薗部産業の工場を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ3
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3.銘木椀ができるまで

木目の美しいシンプルな銘木椀。
一見削っただけの素朴なお椀にも見えますが、
実は、木を切ってから完成に至るまで、どんなに急いでも10ヵ月以上もかかるのだとか。
木のさまざまな部位にまたいで木取りする「板目」は、
ひとつひとつ表情の違う木目が楽しい反面、歪みやすく、加工も難しいのが難点。
手間暇を惜しまず、丁寧につくるその工程を見せていただきました。

現在薗部産業には、職人が7人、外工場、物流関係を入れると約15名ほどが働いています。
100人で作業しても十分な規模という工場では、何室もある乾燥室で木地を乾燥、
その横では木地の加工やろくろ挽き、さらに2階部分では漆塗りや指物の加工など、
木工に関わるさまざまな製作が行われています。
この他、梱包作業場、そして木地の保管場所である別棟が。
工場内はずらりとならぶ製作中の材でいっぱいです。


道具の準備:鍛冶

田中さん
田中さん

この日作業していたのは、木工職人暦50年以上という職人さん。

まずは、入口近くの鍛冶場に案内していただきました。
ころんと丸いかたちが特徴の「銘木椀」。
その成形に使う鉋(かんな)や「バイト」と呼ばれる刃物は、
鉄の丸棒から木工職人自ら鍛冶を行いつくります。

バイトと鉋

刃先を曲げる角度など、自分の手の延長のような道具をつくることができるのも職人の技量のひとつ。

お椀をかたちづくるのに、4~5種類の刃物を使い分けます。
各4~5本ずつ所有し、計20~25本ほどの刃物を1ヵ月に1度、叩いて曲げなおすのです。
鍛冶ができなければ、1人前の木工職人とは言えないのだそう。

刃先を叩いて曲げる

熱した刃先を叩いて伸ばし、絶妙な角度に曲げていきます。

ケヤキの端材を利用した炭

お椀をつくるときに出た端材を炭にして、鍛冶に利用しています。今日はケヤキの炭を使用。



工程1:材の仕入れ(伐採~製材)

各地で伐採された木は、木の種類ごとに競りにかけられる場所
「土場(どば)」が違います。
日本各地に散らばる土場から、それぞれの木を競り落とします。
薗部産業では、材の収集は昔からつきあいのある製材所に委託。
かつては自社で行っていた製材も、
人員不足や維持費の関係で今は製材屋さんにお願いしています。
欲しい材の種類や特徴を伝え、
全国の土場から調達された材を、柱状にまで整えられたものを仕入れています。


工程2:木取り

木取りされたお椀の材

使用するサイズにカットされた材。

製材屋から仕入れた柱状の材を、つくるお椀の直径の長さにカットします。


工程3:荒木取り

荒木取り

お椀の荒木取りは、外側と内側を別の機械で行います。奥が外側を削る機械で、手前が内側をくり抜く機械。

四角く木取りした材の外側と内側を、厚さが均一になるまで削ります。
厚いまま乾燥させると割れてしまうため、
実際のお椀の微妙なラインを削り出すのに必要なだけの厚さを残し薄くするのです。
また、薄くすることで乾燥が速まるのだとか。

荒木取り:外側

四角く木取りされた材を、まずは外側をざっくりとお椀のかたちに削ります。

一般的には、四角い材をさらに八角形にカットしてから丸いかたちにしますが、
コストを下げるため、四角からダイレクトに丸へ削ることができるよう機械を改造。
なんと利弘さんが自ら、刃の設計をし、改造しました。
「木工の機械は、それ専用というものは市販されていないんですよ。
あくまでも自分たちがつくりたいものに合わせて改造しないといけないんです。
メンテナンスしながら、50年以上使い続けています」と利弘さん。

荒木取り

内側を削ります。機械の改造により、1日に削ることができる数が、300~400個から800~1000個まで上がりました。




工程4:自然乾燥(2~3ヵ月)

自然乾燥

プレート用に丸く「荒木取り」された材。

木は切られたあとも、空気中の水分を吸収したり、乾燥したりを繰り返しています。 その際に変形や縮みが起きますが、じっくり乾燥させることで伸縮が落ち着いていきます。 2~3ヵ月自然乾燥させます。





工程5:乾燥室で乾燥(2~3週間)

乾燥室

お盆全盛期時代に整備した、巨大な乾燥室。

自然乾燥で、ゆっくり水分を出し入れしながら伸縮を繰り返した木材を、
乾燥室に入れ、2~3週間かけて人工的にさらに水分を抜いていきます。
薗部産業には、木屑を燃やして行う昔ながらの燻煙乾燥と、
ヒーターと除湿機を使う乾燥ができる2通りの乾燥室が全部で7室も整備されています。

下段

燻煙乾燥室の下段。乾燥室は二段になっていて、上段に乾燥させる材を積み、下段で木屑を燃やしてその煙で燻しながら乾燥させます。

ケヤキのお椀

この日はケヤキのお椀が乾燥室に入っていました。木の種類によって乾燥の仕方が違うため、1種類ずつ乾燥させます。

下の段で木屑を燻し、上の段には荒木取りされたお椀がずらりと並びます。
燻煙乾燥は、温度が一定になりにくく難しいのですが、
煙に水分が含まれているため、材をやさしく乾燥させることができます。
また、材の表面にうっすらタールがつくことで、防虫効果もあります。
木目が大きく乾燥により割れやすいケヤキやクリ、
その他芯を含んだ材を乾燥させるときに使用しています。

ヒーターと除湿機の乾燥室は、温度や湿度は機械で管理。
とはいえ、木自体の乾燥具合は、 見た目ではわかりにくく、ひとつの材でも部位により違うため、
乾燥室に付いている水分計も目安にしかなりません。
経験と勘だけが頼りです。


工程6:ならし(半年)

銘木椀のならし

屋内の倉庫の2階が銘木椀のならし場所。3~4万個が並ぶ姿は圧巻です。

自然乾燥、乾燥室での乾燥を経ていざ成形と思ったら、まだまだ先がありました。
乾燥室から出した材は、空気中の水分を吸うとまたかたちが動きます。
自然の湿度に沿って伸びたり縮んだりをゆっくりじっくり繰り返し、
木が落ち着くまでが約半年。
倉庫の中でそのときを待つのです。


工程7:ろくろ成形

ろくろでの成形

ろくろでの成形。この日は2人の職人さんが作業をしていました。右の職人さんはお盆を制作中。そこらじゅう木屑だらけ。

「荒木取り」をして乾燥させた材を、いよいよお椀のかたちに成形します。
最初に外側のかたちを削り出し、その後内側を削っていきます。
この日は、外側を削っていました。

池谷貞男さん

木工職人暦40年の池谷貞男さん。板目の加工は世界でもトップレベルと利弘さんが太鼓判を押す親方です。

サクラの銘木椀の外側を削っているのは、
利弘さんが信頼を置く親方の池谷貞男さん。
この道40年のベテランです。
目にもとまらぬ速さと滑らかな動作で次から次へと削っていきます。

外側を削る場合、ろくろに材を固定したら、まずは高台から。

削り
削り

高台の大きさを測って印をつけたら、高台の内側をくりぬいていきます。

左手で握るようにつかんでいる木のバーは、「ウシ」と呼ばれる道具です。
木の棒に足が付き、斜めに傾いている姿が牛に似ているとそう呼ばれるようになったとか。
このウシに刃物を持つ腕を置き、テコの支点のようにして安定させています。
ウシをうまく利用すると、削る薄さや力を加減することができるのです。

高台が削れたら、お椀の直径を定規を当てて確認。
その大きさを頭に入れながら、お椀の側面をふっくらとした丸みに削っていきます。
丸みの感覚は勘が頼り。

銘木椀の側面の丸みを削る

銘木椀の特徴である側面の丸みを削ります。

銘木椀の側面の丸みを削る

あっという間に紐のようにつながった薄い木屑が何本も出てきました。それだけ均一に削られているということ。

シャーっという音を立てて軽々と削っていきますが、
ろくろの回転で強い遠心力がかかっている状態で刃物を当てるのは、経験によるコツが必要。
一歩間違えると刃物が飛ばされてケガをすることも。
とはいえ、びくびくしていてはいっこうに削れません。
絶妙な力加減でなめらかに挽くことができるのは、40年のキャリアを持つ親方ならでは。

研磨

研磨ペーパーで木肌を滑らかに整えます。池谷さんの指のテーピングは、怪我をしているからではなく、ろくろの回転で皮膚が削れるのを防ぐため。

最後に荒さの違う2種類の研磨ペーパーで磨きをかけて、外側が完成です。
同じ日のうちに、続けて内側を削ります。

外側の成形が終わったお椀たち

外側が削り終わったお椀たち。内側はこれから。

親方レベルだと、外側と内側合わせて、
1日に60個のお椀を削ることができるとか。
でも、60個挽いたからといって
すべてが商品になるとは限りません。
挽いて見て、シミや節があるものは
はじいてしまいます。
60個挽いても、10個しか使えない
ということもあるのだとか。




工程8:塗装(4日間)

銘木椀

ウレタンは透明色なので、一見何も塗装を施していないように見える銘木椀。ひとつひとつの木目がはっきりとわかります。

内側まで挽き終わったら、最終工程の塗装へ。
木目を美しく見せるためにこだわったウレタン塗装は、
工場の隣にある親戚のウレタン工場で行っています。
ウレタンは、乾きが早いのも特徴のひとつ。
半日あれば乾きます。
ムラなくしっかりウレタンを定着させるため、
塗っては乾かしを4回繰り返し、ついに「銘木椀」が完成するのです。


工程9:梱包・出荷

パッケージに収められた銘木椀

ひとつひとつ箱詰めされた銘木椀。使われている材の説明が丁寧に書かれた説明書も、同梱されています。

薗部産業の木工所に戻ってきた「銘木椀」は、
梱包・出荷担当がひとつひとつ丁寧に箱詰め。
全国の小売店、そしてお客様のところへ送られていきます。

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