大久保ハウス木工舎の工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ2
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2.ユニークな木工、大久保スタイル

木工には、木の塊を刳り抜いてつくる「刳物(くりもの)」、
木板を接合して箱などをつくる「指物(さしもの)」、
お椀のように轆轤(ろくろ)で挽いて成形する「挽物(ひきもの)」、
わっぱなど曲げてつくる「曲物(まげもの)」、
かごのように編んでつくる「編物(あみもの)」などがあります。
大久保さんが手がけるのは、
木そのものを削ってかたちにする刳物です。

まずは、大久保さんの「木のヘラ」ができるまでの様子を映像でご覧ください。

▲制作・撮影・編集:周波数24/7、字:ウチダゴウ、音楽:日吉直行



道具づくりから仕事がはじまる

大小さまざまな鉋

▲新しいアイテムをつくる度に増える道具。写真手前の刃が木の台に据えてあるものが鉋、奥の細長い刃物が小刀です。

木を削るのに使うのは、鉋(かんな)。
工房には、サイズもかたちもさまざまな鉋が箱に入れられ、
さらにその箱が何箱にも及びます。

道具について説明する大久保さん

▲たくさんある道具ですが、どのアイテムに使う道具かは、見ればわかると言います。

そして、すべて大久保さんの手づくり。
「戦後なんですけど、道具の世界にも既製品が販売されるようになって、
みんなそれを買って使うようになったんです。
でも元々の鉋って、刃を鍛冶屋に打ってもらって
自分のしたい仕事に合わせて台に仕込んで使うものなんです」。
だから大久保さんは、自分のしたい仕事に合わせて刃を鍛冶屋に発注し、
台は自分でこしらえます。

台のかたちがつくるものに写る

▲刃を据える前の台。台のかたちが削る木に写るのだとか。蒲鉾形にゆるやかなカーブを描いています。

平らな台で削ると木も平らに、台が丸いとも木も丸くなるなど、
鉋の台のかたちが削る木に写るのだとか。
そのため、つくるものに合わせて道具も変わります。
既製品を使ってもつくることはできますが、
同じものを早くたくさん削るためには、
ものに合わせた道具が必要になってくるのです。
使う人の声に合わせてつくるかたちを変え続ける大久保さんだから、
道具はどんどん増えていきます。

歴史から見えるもの

大久保さんの彫るための道具

▲削る作業をする場所。木で組まれた台も、削りやすいよう自作のもの。

そもそも大久保さんが道具を意識するようになったのは、
京都での職人時代のこと。
実は大久保さん、木工作家になる前は、京都の建具屋で職人をしていました。
「文化財などの保存工事で
古い建具を当時のやり方で修繕するというのを何百枚とやったんです。
古道具屋や骨董屋で古い道具を求めて自分で直して使って……」。
いろいろと調べていくうちに、昔の日本の道具が
世界的に見ても優れていると思うようになったのだとか。

削る刃物

▲左から、南京鉋、台鉋、小刀。削りに使うのは、この3種類だけ。これらもすべて「打刃物」です。

「西洋の道具と比較して、日本の道具には目盛りがついていないんです。
数値化できないから、経験の中から加減を体得していかないと使いこなせないものが多い。
でも逆を言うと、感覚的にいろいろなケースに対応できるから汎用的で応用力も高い。
しかも、日本の鉋では1ミクロンくらいまで薄く削れるという記録もあるほど
精度が高い道具なんです」と大久保さん。
ラップの厚みが約20ミクロン。1ミクロンに削られた木は、向こう側が透けて見える薄さです。

「その精度を支えるのが、日本の刀鍛冶からくる打刃物(うちはもの)なんです」。
打刃物とは、打って鍛える鍛造技術と研ぎの技術によって生まれた刃物のこと。
すっかり打刃物にはまったという大久保さんは、
平安時代にまで遡るという日本の刃物の歴史にも興味を持っていきました。
神戸にある刃物の博物館へも足を運んだり、
全国規模の打刃物愛好者が集まる会にも参加して、
プロアマ問わずマニアな人々から多くを学んだと言います。

木工の常識の真逆を行く「濡らし削り」

濡らし削り

▲シュッシュという小気味よい音とともに、軽やかに削られていくヘラ。

濡らしたあとの木

▲削られるのを待つ木たち。木は濡らしてから削ります。

さらに、道具史や木工史を調べていくうちに、
大久保さんの木工スタイルを大きく変える発見もありました。
それが、木を濡らしてから削るということ。

木は、濡れた状態から乾くときに、反ったり狂いが生じます。
立木を切った状態は、まだ木が水を含んだ状態のため、
しっかり乾燥させ、木が落ち着いてから加工するのが一般的。
大久保さんも、
「最初は乾いた状態で削っていたんですが、
乾いた木を削るには力が必要で、すごい筋肉痛に。
『こんな仕事は生涯やっていられない!』ってなったんです」。
ところが歴史を見てみると、
木を乾燥させて使う方法は明治からだったことが判明。
木工の世界に機械が導入されるようになり、
機械の力に負けないようかたく乾いた状態で使われるようになったのです。
「近代の機械加工を前提としている方法であって、
個人工房で人力で削るのにはベストじゃないと思うようになって」と大久保さん。
江戸時代までの木工では、山に入って木を切り、
丸太で持ち運ぶのでは重いため、
山の中である程度のかたちまで削っていたとか。
水を含んだ木はやわらかいため削るのも容易だったのです。

粗削りした後水に浸ける

▲機械を使ってざっくりとかたちを切り出した後、水に浸しているところ。茶色く見えるのは、木から出たヤニです。

ベストは、木を切ってきてすぐに削ること。
ただ、今の木材の仕入れ環境では難しいため、
機械で荒削りをしてある程度のかたちまで木取りをしたものを
一度水につけて濡らしてから削るスタイルになりました。

木の個体を拾ってかたちにする

濡らして削った後は、一旦乾かします。
丸太の状態で乾かすよりも、
つくりたいもののサイズに削ってからの方が早く乾くという利点もあります。
とはいえ、乾くときに木が伸縮して狂いが生じるのは同じ。
立木のときの環境によって、それぞれの木には癖がつくのだとか。
傾斜地に生えていたら、重力に逆らうように育ったり、
風の強いところに生えていたものなら、それに耐えるように育ちます。
木が切られて乾くとき、その力が解放され、反りやねじれにつながるのです。

墨つけ

▲木材をどう使うか、型を当てて印をつける「墨つけ」をした木材。

木取り

▲墨つけに沿って、機械でざっくりとしたかたちを切り出す「木取り」後の状態。

そのため、木材に型を当ててかたどる「墨つけ」と呼ばれる段階で、
木の個性、素性を見ながら
木材からどのように木を取るかを考えるそう。
それでも、乾かしてみるとヒビが入ったり内部に割れが生じることも。
「だいぶ暴れちゃうこともあって、商品にしないではじくこともあります。
その繰り返しですね」。

乾かしたらまた削ります。
木は個体差の激しい素材。
削る工程で刃を入れた瞬間、かたいとか粘りがあるとか木の素性が見えてきて、
音や重さを頼りに最終的なラインを決めていきます。
大久保さんがつくる木の道具たちの共通点は、
道具でありながら薄くてシャープで軽いこと。
「一つ一つ個体差を拾えば、木は細く薄くしても丈夫な素材なんです。
ただ、工業製品の木工品の場合、木の個体差を判断する工程を持ちにくいので、
機械で均一に加工していまいます。
個体差をケアするために、一回り大きいサイズにデザインされることが多いんです」。

個人工房で1人、手で削ってものをつくるのは
機械を使う木工に比べていかにも非効率的なようですが、
大久保さんはそこにこそ自分が木工をやる意味があると言います。
「木という不揃いな素材に対応しながら、
使う人の声に早いスパンで応えることができる。
それが自分のスタイル、個人工房でやっていくうえでの長所。
そう思えたら、ちょっと背中を押された気分になりましたね」。

気づいたことが書き込まれたヘラ

▲つくりながら気づいたことは、直接書き込みます。

そして、削った数だけ、経験した分だけ
木についての数値化できない引き出しが増えていきます。
木を見た瞬間、前はわからなかったことがわかるようになっていけば、
より早く、たくさん、安定してつくり出すことができるようになります。
そのためには、「たくさん使ってもらえたら、その分かたちに反映することができると思うので、
より進んだかたちにできると思うんですよね。
それを少しでも進めたいっていうのが今ですね」。

ヤスリはかけない、削って仕上げる

大久保さんの木のアイテムのもうひとつの特徴が、手触りです。
「よく『つるつるしてる』って言われます。
木の家具や木工品を触ると、『すべすべ』って言う人が多いんですが、
その違いは仕上げの方法からくるんです」と大久保さん。

一般的に多いのは、削った後にヤスリをかける仕上げ方法。
ヤスリをかけるとすべすべした表面になりますが、
目には見えない小さな毛羽立ちが生まれてしまうのだそう。
毛羽立ちを抑え、塗膜をつくるため、オイルなどの塗装を施します。
刃で削った状態はその毛羽立ちがないので、つるつるとした感触に。
そのため、雑菌やカビもつきにくくなるのです。
だから大久保さんの木のアイテムは、
匙のように口に含むもの以外は無塗装仕上げ。
人間の敏感な舌は木の導管によるざらつきまで感じてしまうため、
匙には漆を塗っています。
でも他のアイテムは、オイルすら塗りません。
「何もしなくてもけっこう木は本来強いので、
削って仕上げることでそれを引き出せるのなら何も塗らなくていいかなと」と大久保さん。

無塗装ゆえに、木そのものの色、
さらに使っていくうちに変化する経年の楽しみも味わうことができます。
そして、それを可能にするのが道具です。

南京鉋

▲独特なかたちの「南京鉋」。両手で握って削ります。

大久保さんが現在削るときにメインで使用しているのが「南京鉋(なんきんかんな)」。
細長い棒のような台の中央に刃を据え、両手で持って使います。
「南京」と名前がついていても、日本生まれの道具。
明治以降、日本の職人が西洋家具をつくるために生み出しました。
それを大久保さんは、家具よりももっと小さな食の道具、
匙などをつくるのにも使うため独自に改良中。
「家具は最終的にヤスリで削る工程があるので、
南京鉋はだいたいのアウトラインを出す道具でしかなかったんです。
でも、日本の精度のいい刃ならば最後まで削って仕上げることができそうだなって考えて、
今はつくっては試し、を繰り返しているところです」。

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