釜定の工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ2
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2.世界に誇る技-鉄瓶ができるまで

鉄瓶ができるまでには、大きく分けて「構想」、「鋳型制作」、「溶解」、「仕上げ」の
四つの工程があり、さらに、それぞれ細かい工程に分かれています。
一つの鉄瓶が出来上がるまでは、気の遠くなるような長い道のりがありました。

工程1:構想

作図

▲鉄瓶の作図。つくりたいかたちと、それを実現させる方法の2方向から考えていきます。宮さん曰く「技術力に裏づけられたデザインが大切」。

  • 木型制作

    ▲図面に基づき、鉄板を切って木型を制作。

  • 鋳型づくりに必要な道具

    ▲鋳型づくりに必要なもの一式。写真左は昔の木製だった頃の木型。真ん中は現在の鉄板製の木型。下はつまみと注ぎ口の原型、右は鉄瓶の表面の加飾に使う道具。道具もつくるものに合わせてつくります。

どんなものをつくるか、かたちや大きさ、デザインなどを考えます。
それが決まったら図面を描き、鋳型をつくるために必要な「木型」や、
図面を立体に起こした注ぎ口や蓋のつまみなどの「原型」、
鉄瓶の表面模様を描くための道具などを作成。
「木型」は、元は木製でしたが、今では鉄板でつくります。
鉄瓶の断面を縦に1/2にしたかたちになっていて、
直線の方を軸にしてくるりと一回りさせると、その軌跡は鉄瓶の本体のかたちを描きます。

工程2:鋳型制作

溶かした金属を型に入れて成形する鋳物のわかりにくい工程の一つが、
この「鋳型制作」の部分。
宮さんも、「普通の品物は、つくっているときに完成のかたちや色が見えているけれど、
鋳物の作業というのはそれが見えないんです。
完成とは逆のかたちの鋳型にしなくてはいけないんですよ」と苦笑します。

実型

鋳型づくりに使うのは、構想の工程でつくった木型と、
鋳型の土台となる「実型(さねがた)」です。
実型は、上下に「胴型(どうがた)」と
「尻型(しりがた)」に分かれています。
写真は、尻型。
溶かした鉄(湯)は鉄瓶をひっくり返した状態で注ぐため、
尻型に湯口があいています。

砂

鋳型の素材は、砂と粘土。
耐火性の高い砂に恵まれていたことも、
盛岡で南部鉄器が生まれた由来です。
今でも、盛岡を流れる雫石川の上流まで、
砂を取りに行っているのだとか。


型挽き

▲木型が鉄瓶の断面を半分にしたかたちになっているのは、このように回転させて使うから。360度回転させるとくるっと鉄瓶の本体のかたちになるのです。

砂をふるって粘土汁と混ぜた「鋳物砂」を、
胴型と尻型それぞれの内側に貼りつけ手でつき固めたら、
中心に木型をセットし、木型を回転させながら、
鋳物砂に鉄瓶のかたちを写していきます。

加飾

▲鉄瓶のぽつぽつとした霰模様は、実は1点1点手で施しているのです。

霰(あられ)など表面に模様があるものをつくるときは、
鋳物砂がまだ湿っているうちに、鉄瓶の表面が当たる部分に加飾を施します。
注ぎ口やつまみとなる細かいパーツの鋳型も準備します。

  • 鋳型の焼成

    ▲「吸い込み」と呼ばれる装置に伏せた状態で起き、木炭の炎で焼成します。胴型、尻型別々に焼成します。

  • 焼きあがった鋳型

    ▲焼きあがった鋳型。ここまでだけでもまるで陶器をつくっているよう。鉄瓶制作にはさらに先があるのです。

本体の鋳型に注ぎ口やつまみの鋳型を埋め込み、木炭の炎約900度で焼成します。
鋳型は焼き過ぎても焼きが足りなくても、鉄瓶のできを左右します。
炎の色や勢いは目視で確認して調整します。

  • 紺屋町の入り口

    ▲中子は、型離れよくするために、表面に木炭粉を水で溶いた黒味(くるみ)を塗っておきます。

  • 中津川

    ▲左上から時計周りに、胴型、尻型、中子。

鉄瓶の鋳型制作のポイントは、さらにここから。
中が空洞になるようにするためには、鋳型の内側に入れる型「中子」が必要です。
中子は砂を少量の粘土汁で練ってつくり、
鉄を流し込んだ後に壊して取り出すため、焼成はしません。

胴型に中子を収め、尻型をかぶせ、ようやく一つの鉄瓶の鋳型が完成です。
20代半ばから40年のキャリアがあるという宮さんでさえ、
「模様のないシンプルな鉄瓶で、砂ふるいからここまで3日で3個くらい」と言います。
もうすでに、鉄瓶づくりにかかる手間と時間が推し量れます。

工程3:溶解

釜定では現在、つくるものや個数、
季節に応じて三つの溶解炉を使い分けています。
昔ながらの溶解炉「こしき」、高電圧を使う「高周波炉」、
坩堝(るつぼ)という耐火性のあるつぼを使う「坩堝炉」。
「たくさん欲しいときは坩堝炉、
急ぎで少量つくりたいときは、スイッチポンで小回りが利く
高周波炉を使います」と宮さん。
溶解方法によって溶かした鉄の性質も微妙に変わるため、
周りに大量の熱を発する、危険で過酷なこしきも、
やっぱり必要なのだとか。
今回は、こしきで溶解する工程をご紹介します。

こしきの原理はシンプル。
上から鋳物の原料の鉄「銑鉄地金(せんてつじがね)」と
燃料である炭素の塊「コークス」を交互に投入すると、
下に落ちる約1mほどの間に溶けた鉄が底に溜まります。
不純物は表面に浮かぶため、
底部の口からは良質な溶鉄(湯)だけが出てきます。
単純な構造だからこそ、操るには勘と経験が必要。
危険も伴うため、
鋳物の現場から姿を消しつつあると言います。
それでも使い続けるのは、
こしきでしかできない湯があるから。
鉄は熔解の際、ただ溶けるだけでなく酸素と結びついたり、
成分が化学的に変化しているのだとか。
溶解方法によって変化の仕方が変わり、
それができ上る湯の性質を左右するのです。

こしき

▲パーツを上に積み上げただけのように見える「こしき」ですが、製鉄所で使われる大きな溶解炉と原理は同じ。20年程でくたびれてくるので、その度に自分で設計して新調するのだとか。

溶解

▲右は湯をトリベに受ける「次ぎ手」、左は湯口をふさぐ「セメ役」。

こしきの底に湯が溜まった頃合いを見て、
「トリベ」という柄杓に湯を受け鋳型に流し込んでいきます。

鋳型に流し込むところ

▲高温過ぎて白くさえ見える湯。湯面の表情で温度や湯質を判断するのだとか。

流し込みは2人一組。
釜定では、基本的に1人の職人が一つのアイテムを最初から最後まで担当しますが、
溶解については予定を合わせ、複数人で行います。
鋳型にふみ板を掛け、両側から板にのり、
煮えたぎる湯によって鋳型が持ち上がってこないよう押さえながら注湯します。
湯口(注ぎ口)の大きさは、わずか径20~30mm。
1500度近くもある湯を、その穴を狙いつつ、
型に応じて注ぐ高さや湯の太さを調節しながら流し込むのです。
1~2分ほどしたら、湯口に溜まった余分な湯をこしきに戻します。

工程4:仕上げ

型から取り出す

▲鋳型が壊れなければ、数回は繰り返して使えます。床が土間になっていて、写真のように壊れてしまったものは、砂に崩して土間に戻します。

5分ほどしたら、鋳型を胴型・尻型に分割し、鉄瓶を取り出します。
中子は割って砕き、その砂はまた鋳型制作に使われます。

  • 焼き込み

    ▲「焼き抜き」の作業。燃料や環境によって黒錆びのつき具合が変わるため、今だに昔ながらの木炭での焼き抜きにこだわります。

  • 焼きあがった鋳型

    ▲焼き抜きをして内側に黒錆びをつけた後の鉄瓶。表面も少し錆びたような色合いに変化しています。

鋳型から取り出した鉄瓶は、約900度にもなるという木炭の中で焼き、
酸化被膜である黒錆びをつけます。
これを「焼き抜き」と言い、南部鉄瓶独特の技法です。
この工程を経ることで一般的に錆びと言われる赤錆びがつきにくくなるのです。
湯を沸かすのに使う鉄瓶は、油を扱う鍋に比べて錆びやすい環境にあると言えますが、
それでも錆びないのはこの焼き抜きをきちんとやっているから。
「でき上ったものを見ただけではわからない裏の仕事。
目には見えない部分だけど、このプロセスをきちんと踏んでいるかで
品物の寿命や錆びやすさが決定的になります」と宮さん。
また、お手入れの際の注意事項に、鉄瓶の内側は絶対に洗ってはいけない、
というのがあるのも、せっかくつけた黒錆びが取れてしまうからなのです。

漆の焼きつけ

▲炭火の上で鉄瓶を熱しながら漆を焼きつけると、熱で漆と鉄が化学反応を起こし、より強固に付着します。塗るために使っているのは、熱に強い、水辺に生える「クゴ」といわれる草。「昔の知恵はすごい」と宮さんが言う、昔ながらの道具の一つ。

細部をヤスリや砥石で整えたら、最後の工程。
表面の錆び止めに、さらに漆を焼きつけていきます。
漆と言えば高級品。
「漆はものすごく高いのですが、
強度という意味でどんな化学塗料よりも優れています。
鉄と漆は化学反応で結びつくので、塗っているというより結合されているんです。
先人の知恵として、漆を焼きつける工程は続けています」。

鉄瓶の弦(つる)は、鋳物ではなく、1枚の鉄板を熱し、弦鍛冶職人が叩いて袋状にし、
個々の鉄瓶に合わせて曲げてつくります。

こうしてようやく鉄瓶が完成。
一人前の職人でも1ヵ月に30個が限度。
まだ若い職人だとその1/3ほど。
「もっと簡単な方法はないかなと思うけど、思いつかないですね。40年やっても」。

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