2.福光焼ができるまで

福光焼の工房

▲やわらかな光が差し込む工房。この奥に登り窯があります。

「じゃあ、ちょっとつくってみますか」と
工房に招き入れられ、器ができるまでを見せてもらいました。

工程1 土の用意

菊練り

▲土の中の空気を抜く「菊練り」を行うと、表面に菊の花のような模様が。表裏100回ずつ練ります。

土は、島根県の石見(いわみ)と山口県の萩の土を混ぜ合わせたもの。
「昔はこのあたりで、焼き物にいい土が採れたんだけど」と河本さん。
倉吉で採れていた土になるべく近づくよう、自分でブレンドしています。

機械で土を混ぜ合わせた後、手でこねて、
土のやわらかさを均一にし、土が含んだ空気を抜く「菊練り」を行います。
空気が残ったままだと、焼いたときに膨張して、割れてしまうことも。

工程2 ろくろで成形する

蹴ろくろ

▲掘りごたつのような穴の中に埋め込まれた蹴ろくろ。河本さんが使う蹴ろくろは、糸巻きのようなかたちで下の台の方が大きめ。重心が下にくるので、回りやすいそう。

土の用意ができたら、蹴ろくろを使って、器のかたちに挽いていきます。
土をろくろの真ん中にセットして、
にゅるにゅると土を引き上げたり押し下げたり自在に操り、
そのうち親指で中心に穴をあけると、一気に湯呑みのかたちに。

もちろんその間にも、ろくろを蹴ることを忘れてはいけません。
手の動きだけでも集中力が必要なのに、
足にも気を配らなければいけないなんてと思っていると、
「蹴ろくろをはじめた頃は、
蹴る方に一生懸命で、なかなか手の方に神経がいかなくて」と河本さん。
「一生懸命蹴り過ぎて変なところに力が入って、
お尻の皮が剥けたこともありましたよ」なんて笑い話も。

  • 成形

    ▲木のヘラで整えるのは外面のみ。内側は指跡を残してやわらかさを出しています。

  • 成形

    ▲指でつまむようにして、口の厚みを整えます。

かたちができあがってきたら、木のヘラを押し当てて表面を整えます。
口元の部分は、指を器用に使って薄く、口当たりよく仕上げます。
「普通、口の仕上げには『鞣し革(なめしがわ)』という道具を使うんだけど、私は使いません。
なるべく手間を省いて、速くつくりたいからね。
指だけでも十分仕上げられる」。
極力シンプルに、ということを心がけているわけではなく、
不要な無駄は徹底して省き、必要な手間は厭わないのが、
河本さんのスタイルのようです。

蹴ろくろで挽いた器の断面

▲できあがった湯呑みを、なんと半分に切ってみせてもらいました。切るまでは見えていないはずなのに、均等な厚みで挽かれていることがわかります。

工程3 削り

  • 面取り

    ▲面取りの様子。削り落とされた土を見ると、どれも厚く、小さな端くれはありません。

  • 面取りの削りカス

    ▲削りカスは集めて、もう一度使えるように精製して再生させます。「土を粗末にするな」という生田氏の教えによるもの。

3日ほど乾かしたら、削って表面を仕上げます。
「面取り湯呑み」の場合、まずは福光焼の肝である面取りから。
金属製のやすりをもとに自らつくったという道具を手に、
湯呑みの表面を上から下へ削り取ります。
「面取りで気をつけているのは、一つの面をなるべく1回で削ること。
穴があいてもいいから削れと、(生田氏に)よく言われました。
こてこてやっていたら、面が死んでしまうと」。
1回1回のストロークに勢いがあり、迷いは微塵も感じられません。
この勢いこそが、シャープな印象の秘密でしょうか。

  • 高台の削り

    ▲全体のバランスを見ながら、高台の外側を削ります。一息で削るため、削りカスがりんごの皮のような紐状に。

  • 高台の削り

    ▲平らだった底面の中央を丸く削ります。

次に、高台を削っていきます。
蹴ろくろに湯呑みをひっくり返した状態でセットし、
ゆっくりとろくろを回しながら、
勢いよく大胆に、高台の外側、内側を削ります。
きりりと引き締まった高台の姿は、見ていて清々しいほどです。

ちなみに、福光焼では器にサインは入れません。
「サインがなくてもわかるものをつくれ」という
生田氏の教えを守っています。

工程4 化粧がけ

化粧がけ

▲柄杓でさらさらとした泥状の化粧土をすくい、器にかけます。

1日ほど乾かしたら、次の工程へ。
福光焼で使用している土は、丈夫な鉄分の多い土を使用しています。
鉄分が多い土は、強い赤茶色のため、
真っ白に仕上げたいところには白い土を素地にかける「化粧がけ」を行うのです。

化粧がけの後の器

▲「面取り湯呑み 黒」の内側にのみ白化粧を施した状態。

「面取り湯呑み 黒」の場合、内側に白い化粧を施します。
バケツに入った白い化粧土を取り出してきたら、柄杓ですくい、湯呑みの中へ。
内側全体にかかるよう傾けながら回し、
縁まで土がかかったら、ざっとひっくり返して余分な土をバケツに戻し、乾かします。

工程5 素焼き

  • 灯油窯

    ▲大きな箱のような灯油窯。台車を引き出し、棚に器を並べて焼きます。

  • 素焼き後の器

    ▲化粧をしていない器は、素焼き後、テラコッタ鉢のようなカラッと乾いた赤茶色に。

焼き物は、素焼きと本焼きという2回の焼成を行います。
素焼きは、登り窯に比べると手間なく安定して焼ける灯油窯で。
化粧がけまで終わった器を詰めていき、いっぱいになったら都度焼きます。

工程5 素焼き

面取り湯呑み 3種の釉薬

▲左から白化粧に「土灰釉(どばいゆう)」をかけた「粉引(こひき)」、「糠釉(ぬかゆう)」をかけた「白」、「黒釉」をかけた「黒」。

器の印象を大きく左右する釉薬は、すべて自家製。
予めまとめてつくっておきます。
河本さんが使う釉薬は、生田氏から受け継いだ透明な「土灰釉」、白い「糠釉」、
そして自らつくり出したツヤとマットのバランスが絶妙な「黒釉」。
この3種類が中心です。

そもそも釉薬とは、長石などの鉱物や木の灰をベースに、
鉄や銅など色をつけるための金属類を混ぜ合わせたもの。
これらが焼成されることで化学変化を起こして、
美しく発色するガラス質の釉薬になります。

梅鉢の糠釉

▲米のもみ殻からできるため、昔から伝統的につくられていた糠釉。長いものだと1年以上、何度もテストを繰り返して釉薬をつくります。

例えば糠釉は、工房の近くで育てている米のもみ殻を灰にし、
攪拌してすり潰します。
そこに、冬の間、工房で焚いているストーブから取った木の灰(土灰)などを配合。
なるべく身近な素材を使い、釉薬に仕立てています。

  • 釉がけ

    ▲化粧がけのときに使った竹柄杓を再び取り出し、内側から釉薬を施します。ちなみに、プラスチックや金属より、竹の柄杓の方が水切れがよく、細かいところまでかけやすいそう。

  • 釉がけ

    ▲写真はマグカップですが、「面取り湯呑み 黒」と同じように、内側は白化粧の上に透明な土灰釉をかけます。縁はちょっと外側までかけると、外側の黒釉と重なったところが飴色に焼き上がるそう。

釉薬がけは、化粧がけと同じ要領で内側から。
外側をかけるときは、鋏のような道具などを使って器を持ち上げるのが一般的ですが、
ここでも河本さんは道具は使いません。
頼るのは自分の指のみ。
高台の内側に器用に指を引っかけ、易々と持ち上げます。

釉がけ

▲河本さんは、3本の指を高台の内側に引っかけて器を持ち上げます。試させてもらいましたが、1秒も支えることができず、危うく落としそうに。

釉がけ

▲高台の内側も、底ぎりぎりまでしっかりと釉薬が施されています。

最後に高台の内側まで丁寧に釉薬をかけたら、できあがり。
高台まわりは釉薬をかけずに、素地のまま仕上げるつくり手も多いですが、
河本さんは「素地がいっぱい見えるのはみっともない」と考えるため、
可能な限り釉薬を施しています。

底だけは焼くときに台に置くため、釉薬をかけられない部分。
普通は「撥水材」と呼ばれる釉薬をはじく液を塗ることで、
釉薬がかからないようにしますが、
河本さんは「手間だから」と使わず、
乾いてから底についた釉薬を拭き取って仕上げます。

工程7 本焼き

さあ、いよいよ登り窯での本焼きです。
登り窯で焼くのは、年にたったの2回だけ。
急ぎで受けた注文の品については、
スピードを優先して本焼きも灯油窯で行うこともありますが、
なるべく登り窯にこだわっています。

赤松の薪

▲窯の前に積み上げられた大量の薪。一度の本焼きで使う薪は、ここにあるだけでも足りないほど。

登り窯の燃料は、赤松の薪。
油のある赤松でないと、温度が十分に上がらないそう。
薪割りを行うのも自分たちの手で。
1回の本焼きで、12~13本を1束にした薪を300束も使うと言うから、
薪の準備だけでも一苦労です。

  • 登り窯の焚口

    ▲階段状になった登り窯の一番低い段にある「焚口」と呼ばれる穴。ここから火を入れ、全体に行き渡らせます。火のないときに焚口に手を当てると、すーっと空気が吸い込まれ、窯が息をしているような感覚を味わえます。

  • 連房式登り窯

    ▲窯は三つの部屋が連なる、「倒焔(とうえん)式登り窯」。部屋と部屋の間には「狭間(さま)」と呼ばれる穴があり、そこを炎が通ります。

800~1000点の器を三つの部屋に詰め、
約28時間かけて1280度まで温度を上げます。
窯焚きの最中は窯の前でご飯を食べて、
火の加減を見て薪を調節し、昼夜問わずつきっきり。
登り窯の三つの部屋すべてに炎がかかります。
常に同じ状態になるように火を入れ続けなければいけません。
どんどん温度が上がってくると、
「もっと薪くれ」とか「もう腹いっぱいだからいらん」とか、
窯の声が聞こえてくるような気がするんだそう。

登り窯のレンガ

▲左が2年目の窯のレンガ。右が20年以上使った窯のレンガ。焼き込まれたレンガは、今にも砕けそうにぼろぼろ。しかし灰が降りかかったところがキラキラと輝き、美しく育っています。レンガがここまで育った頃が、“いい窯”だそう。

「登り窯は、大体“いい窯”で上手くいくのが70%。
残りの30%は、傷があったり、ゴミが降りかかったり、焼きが悪かったり。
酷い窯になると、半分くらいはダメになりますね」。
この成功率を少しでも上げるためには、
とにかく焼くことを繰り返し、窯のことを知り尽くすしかないそう。
まるで人間同士のつき合いのように、
窯の特徴や癖を把握し対話を重ねることで、徐々に窯も応えてくれるのです。
「昔から『窯は、へこたれて潰れかけたときが一番調子がいい』って言うんです」。

窯出しの風景

▲窯から出て、ずらりと並んだ器たち。幾度の困難を乗り越え焼き上がったものと考えると、喜びもひとしおです。

焼き上がったら、そのままさらに5昼夜かけて冷まします。
そして、ようやく長い時間かけてつくりあげた器たちの
完成形を目にすることができるのです。

「『窯出しは楽しいでしょう』ってよく言われるけどね、
一番楽しいのはできたものを全部窯に詰めて、
『後は任せましたよ』って火を入れるまで。
そこが一番ほっとするんです」と河本さん。
ひとたび窯に火が入ると気持ちも上昇。
本焼きが終わり、窯から器を出すと
「ここはもうちょっと、ああだったな、こうだったな」と忙しなくなるのです。

「私は男だからわからないですけど、
女性でいうと赤ちゃんができて、
お腹の中に入っているときが一番幸せという、その感覚に近いのかも。
出産は大変だし、生まれたら熱が出ないか、
お乳を飲んでくれないかと、心配ばかり。
窯も同じような気持ちです」と、
河本さんが窯と、そこから生まれる器たちを
我が子のように大切に思う気持ちが伝わってきます。

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