Lueの工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ3
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3.捉われないものづくり

岡山から全国へ、そして世界へ

▲工房から車で20分ほど走ると、瀬戸内海へ。

現在では50種類近くまで増えたアイテムも、
いろいろな人との出会いから生まれていったのだとか。
「最初に小さい『ティースプーン』をつくったら、
もう少し大きいスプーンをつくってと言われて。
スプーンつくったらフォークもいるなと。
京都のピザ屋に依頼されてピザスクープをつくって、
それをそのまま商品化したこともあります。
意外とそういう感じです」。

▲日本有数の民藝館を有する倉敷。

倉敷民藝館という日本でも有数の規模の民藝館があるくらい
民藝のものづくりが盛んな岡山県。
菊地さんが一番最初に商品を持ち込んだのも、倉敷の民藝店でした。
とはいえ、「親が倉敷でアクセサリーを売っていたつながりもあって、
『持って行ってみたら?』って」と、
菊地さん自身はとくにLueのアイテムを「民藝」という括りでは捉えていないよう。
それでも、そこから話がつながり日本民藝館展にも出展。
現在でも複数の民藝店で扱われています。
ブランドをはじめて1〜2年は、自分で気になるお店にも持ち込みながら、
少しずつLueの世界を広げていきました。
早い段階で、日本のものづくりを海外に紹介するディストリビューターの目にも止まり、
アメリカを中心にヨーロッパや台湾へも販路を広げています。

岡山から全国へ、そして世界へという展開に感心していると、
「そんなに大袈裟なことじゃないと思いますけど、
いい人に出会ったんだと思います」と、本人はあくまでも気負いのない姿勢。

人との出会いではじまったのは、異素材とのコラボレーションもそう。

▲靴ベラの革の部分は、鹿児島の革ブランド「RHYTHMOS(リュトモス)」とのコラボレーション。ナイフの柄は、岡山県北の建具屋に下地をつくってもらい、菊地さんが削ってはめ込む仕上げを行っています。

▲「ボトルオープナー」は、木の柄の部分を盛岡の会社が担当。

ナイフケースや靴べらの持ち手の革部分は、
鹿児島の革ブランド「RHYTHMOS(リュトモス)」と。
ボトルオープナーの木柄は盛岡の会社と。
岡山県内だけでなく、日本全国あちこちのパートナーとやっているのは、
東京で開催される業種を越えた展示会で出会った人々だから。
クオリティへの信頼がある人たちとの共創は、
「一から十まで指示しなくても通じるから、
うちはここまでやりますと渡して、その先は向こう次第です」。
そんなゆるやかなつくり方とは思えないくらい、
真鍮と異素材がしっくりと一つのアイテムの中で融合して
お互いの魅力を引き出し合っているように見えます。

工場製品だからできること

さらに2013年には、工場での量産体制による「インダストリアルシリーズ」 もスタート。
展示会で出会った新潟県燕市にある工場に協力してもらい、
原型を菊地さんがつくり、その先の製作をお願いしています。
インダストリアルシリーズ第1作目は、スプーンとフォークが一つになった「スポーク」。
複数本をスタックできるのも特徴の一つで、
収納がコンパクトで持ち運びしやすいところがアウトドアなどで人気のアイテムです。

▲スプーンとフォークが一体型になった「スポーク」。

「このかたちをやろうと思ったときに、
アウトドアで使うというイメージがあって、
だったらスタックできた方がいいなと。
そうすると手でつくるより工場でつくった方がいいと思ったんです」。
同じかたちができるのが工場製品のメリット。
だから、インダストリアルシリーズのコンセプトの一つは、スタックできること。
その後発表された「アイスクリームスプーン」や「デザートフォーク」も同じです。

▲左が「デザートフォーク」で、右が「アイスクリームスプーン」。

それまでのLueのアイテムは、
職人としての感覚を頼りに1本1本かたちづくるハンドクラフト。
そこにこだわる人も多い中、菊地さんはどうだったのでしょう。
「最初からハンドクラフトにこだわりたいというのはなかったですね。
別に自分でつくらなくてもいいかなとも思っていたし。
だから独立するとなったとき自分の名前でやる作家ではなく、
『Lue』というブランドではじめたというのもあります」。

淡々と、飄々と

話を伺うにつれ興味が募って行ったのは、
菊地さんのあまりにも気負いのない、淡々飄々とした姿勢でした。
どこかの学校を卒業したとか、
どこかで修行をしたということもなく23歳でブランドをはじめ、
手仕事の世界では一つの憧れでもある民藝の世界にも踏み入れ、
おしゃれな雑貨やインテリアショップ、海外からも注目されるLue。
一見華々しい軌跡をたどりつつ、ギラギラした野望は感じません。
むしろ、いつも流れるように進んできたら今がある、
そんな風に見えるのです。

▲流れるような書き文字のロゴは、菊地さんが筆で書いたものから生まれたとか。

ちなみに、ブランド名のLueは、
ご兄弟たちからの菊地さんの呼び名「ルーくん」から来ているそう。
「流架」という名前もなかなか個性的です。
「親がヒッピー上がりのクリスチャンだったんで、ルカはキリストの弟子です」。

名前だけでなく、飄々とした菊地さんの佇まいは、
自由なご両親からの影響もありそうです。
「わりと、こうしないといけないという感じではなかったんで。
一般的でないと言ったらおかしいですけれど、
枠に捉われにくい考え方はしやすくなっているのかなと思います」。

そのあり方は、Lueのアイテムにも表れています。
一般的なカトラリーの枠に収まらないかたち。
使いやすさの前に美しさがあるという存在感。
なんとも言えない不思議な魅力を湛えています。
だからこそ、自分の日常に取り入れたくなる。
ここではないどこかへ行ってみたい、
穏やかな日常の隙間にほんの少しある
そんな願望を満たしてくれるアイテムなのかもしれません。

  • ▲真鍮を素材にしたオブジェ。2018年頃から少しずつつくりはじめているのだとか。

  • ▲工房の飾り棚で見つけた変わったかたちのカトラリー。

今後やりたいことを尋ねると、
「Lueのものづくりは、ここでないとできないわけでもないので、
機会があればどっか海外に行ってやってみたいかなとも思います。
あとは、自分としてはもうちょっと作品よりのものをつくりたい」と
これまたのびやかな返答が。
つくづく、捉われない人なのです。
でも何をやっても、
「何だろう?」という好奇心を
Lueの、そして菊地さんのものづくりから掻き立てられることでしょう。

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