異素材の調和が生む、品格漂う存在感

軽く動かすだけで使いやすい、確かな重み。
何でも、軽ければいいというものでもないようです。
ステンレスと木が見事に調和しているデザインに、手にとって使ってみるとわかる使い心地のよさに、惚れ惚れします。

日本のプロダクトデザインの第一人者である柳宗理（そうり／むねみち）氏が1982年に発表した「黒柄カトラリー」。

持ち手の部分は黒いカバの強化積層木。
強化積層木とは、重ねた木材の間に合成樹脂を流してしみ込ませ、加圧圧縮したもの。
丈夫なので、包丁の柄にもたびたび採用される素材です。
厚みのあるステンレス部分との組み合わせが、シックな印象です。

手仕事でつくられる美しさと使いやすさを兼ね備えたかたち

異素材をシームレスに繋ぐのは、熟練の職人技。
硬いステンレスとやわらかな木材をこれほどスムーズに磨きあげることは、高い技術のある限られた職人にしかできません。

ステンレス部分は一般的なプレスでの成形ではなく、叩いてかたちを整える鍛造（たんぞう）でつくられているため、精巧な仕上がり。
しっかりと厚みのある流れるようなフォルムです。
ふっくらとした滑らかな口あたりは、この厚みあってこそ。
これほど美しく仕上げる技術が、80年代にすでにあったことに驚きます。

じっくり眺めると黒の中にもほのかな木目が見て取れる木製の柄部分。

やわらかく、さらに丸みのある楕円形が手に馴染むから、使っていて疲れにくいのです。
木柄は手に取ったとき、ひやりとしないのもささやかながらうれしいポイント。

一つ一つが汎用性のある、６種のカトラリー

同じく「柳宗理」の「ステンレスカトラリー」に比べると種類の展開は少なめですが、その分、一つ一つの汎用性の高さが際立つデザイン。

「デザートナイフ」、「デザートフォーク（４本刃）」、「デザートスプーン」は、デザートとはいうものの、小さすぎず大きすぎず、日本の食卓にぴったりのサイズです。

「デザートナイフ」の刃にはギザギザとした加工が施してあるため、食材をしっかり捉えて切りやすくなっています。
また、「デザートナイフ」のみ、ステンレス部分はハイカーボンステンレスを使用。
18-8ステンレスよりもかたさに優れ、より切れ味を重視する刃物などに使われる素材です。

「デザートフォーク（４本刃）」は４本の長めの刃なので、パスタも食べやすいです。

「デザートスプーン」は幅があるからスープもしっかりすくえ、スープスプーンと兼用することができます。
もちろんご飯ものやカレーにも大活躍。

他に、ヨーグルトやプリンなどをすくうのにちょうどいい「ティースプーン」、飲み物に添えやすい大きさの「コーヒースプーン」、フルーツや小さなお菓子をいただくときに使える「ヒメフォーク」があれば十分。

朝食に、お茶の時間に、夕食に、さまざまな場面で出番のあるカトラリーばかりです。
重厚感のある、古びないデザインは、普段の食事からおもてなしまで、幅広くしっくりきます。

使いやすさに配慮したかたち、力を入れずとも扱いやすい適度な重さに、何といっても存在感のある佇まい。
使う人に寄り添って考えられたいい道具は、時代を経てもそのよさが色あせることはありません。

柳宗理（やなぎ そうり）について

日本のプロダクトデザインの第一人者であり、日本を代表する工業デザイナーのひとり・柳宗理（やなぎそうり／むねみち）氏のデザインによるブランド。柳宗理氏は民藝運動の主唱者である柳宗悦（そうえつ／むねよし）氏の長男で、次男は美術史家の柳宗玄（むねもと）氏、三男は園芸研究家の柳宗民（むねたみ）氏。キッチンウェアや家具だけにとどまらず、玩具やオブジェ、オリンピックの聖火台、トンネルの坑口、歩道橋など広範囲に及び、機能美のあるデザインは世界中から評価を得ています。