調理器具ではおなじみの素材、鉄、銅、アルミニウム。
そして、他の金属を混ぜたりメッキをしたりして生まれたのが、
ステンレス(鉄の合金)、真鍮(銅の合金)、琺瑯(鉄にガラス質の釉薬をかけたもの)、
ブリキ(鉄に錫をメッキしたもの)など。
それぞれ特徴があり、扱い方もさまざま。
さらに、鍋やフライパンのように「油を使うもの」と、ヤカンのように「お湯を沸かすもの」、
調理器具やカトラリーなど「直火にかけないもの」など、
用途によっても使い方やお手入れ方法は違ってきます。
ここでは、
「調理する道具(煮る・焼く・炒めるもの)」
「お湯を沸かす道具」
「カトラリー・キッチンツール(基本的に直火にかけないもの)」
「庖丁」
の4つに分けて、素材別の使い方やお手入れ方法をご紹介します。
まずは、主な金属の特徴を簡単に確認しておきましょう。
※上記は、あくまでも一般的な金属としての特徴です。
製品になるまでの加工や使用状況により、各商品の性質には個体差があります。
各メーカーの表示する取扱説明書に従ってください。
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鉄の鍋・フライパン
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中華料理のような炒め物には、強い火力が必要。 それには、熱に強くて丈夫な鉄鍋が一番です。 さらに、鉄製の鍋やフライパンで調理すると、 体に吸収されやすいイオン化された鉄を摂ることができるというおまけ付き。
鉄には、製造方法の違いにより、「鋳鉄(ちゅうてつ)」と「鍛鉄(たんてつ)」の2種類があります。
「鋳鉄」とは、高温で溶かした鉄を型に流し込んで成形したもの。
厚みがあるため、蓄熱量が多く、保温性があります。 そのため、食材にじっくり火を通すことができます。
一方「鍛鉄」は、焼いた鉄を叩いて成形したもので、薄くつくることができるのが特徴。 薄いと熱がすぐ食材に伝わりやすく、野菜などをしゃきっと炒めることができます。
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銅の鍋・フライパン
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最も熱伝導率が高いのが、銅。
銅製の鍋やフライパンは、弱めの火加減でも鍋全体に熱が回るので、食材へ均一に火を入れることができます。
そのため、ジャムや餡子など、コトコトじっくり火を入れたいものに最適。
また、“玉子焼き器といえば銅製”といわれるのは、高温にしなくてもいいので、玉子がぱさつかずふっくらジューシーに焼き上がるから。
弱火や中火で十分調理できるので、省エネでもあります。
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アルミニウムの鍋・フライパン
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銅に次いで熱伝導率が高いのが、アルミニウムです。
さらに、金属製の道具の中では軽いというのも利点のひとつ。
熱が早く伝わり、軽くて腕への負担も少ないことから、プロの料理人でも使っている人が多いと言われています。
また、一時期アルツハイマー病との関連が話題になりましたが、現在ではWHO(世界保健機関)もその因果関係を否定しています。
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ステンレスの鍋・フライパン
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使い方にあまり気を使わなくてよく、お手入れが簡単なステンレス製は、一家にひとつあると重宝します。
鉄にクロムという金属を添加してつくられ、金属とは切っても切り離せないサビに強く、お手入れが簡単なのが特長です。
よく見かける「18-8ステンレス」とは、クロム18%、ニッケル8%の意味で、
鉄にクロムだけでなくニッケルも加えることでよりサビにくくしたものです。
さらに、酸やアルカリ、衝撃にも強いので、気軽に使えます。
ただ、熱伝導率はあまりよくないため、熱まわりにムラがあります。そのため、他の金属と層にすることでその点を補う製品も生まれています。
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フッ素樹脂加工の鍋・フライパン
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アルミニウムやステンレスなどの鍋やフライパンの表面にフッ素樹脂加工を施したもの。
目玉焼きもパンケーキも餃子も、すっと剥がれて気持ちよく調理ができます。
油の量も抑えられるのでヘルシー。
ただ、焦げ付きにくいという長所の反面、高温に弱く、加熱しすぎると加工が痛んで、逆にこびりつきやすくなってしまうので、使い方やお手入れ方法に、ひと手間必要です。
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どの鍋・フライパンも、まず「洗う」というのは共通です。
その後、洗うだけでおしまいのものもありますが、素材の性質によって、さらにひと手間必要なものもあります。
ここでは、一般的な方法を紹介します。
商品によっては該当しない場合もありますので、
購入時に付いている取扱説明書を必ずよく読み、それに沿ったお手入れをしてください。-
洗う
鉄
銅
アルミニウム
ステンレス
フッ素樹脂加工
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食器用洗剤を使ってよく洗い、すすぎます。
ただし、鉄製のものの中には、洗剤を使わず「水か温水で軽く埃を流す」(釜定)だけでいいとされているものもあります。
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油ならし
鉄
鉄は、サビやすいという性質もあります。
サビにもいろいろありますが、「赤サビ」には要注意。進行すると鍋を傷める原因になってしまいます。
表面に油などで膜をつくるようにすることがサビの防止になります。
そのためにも、使い始めに油を馴染ませる「油ならし」が必要となるのです。
油ならしの手順は、商品によって少しずつ違いますが、共通するのは、「油と一緒に鍋を熱することで油を馴染ませる」(釜定、山田工業所、la base)ということ。その際、野菜くずを一緒に炒めると、より鍋全体に油が行き渡りやすくなり、また、表面の余分な塗料やホコリが取れやすくなると言われています。
鉄製のものは、使い込むうちに自然に油が馴染み焦げ付きにくくなりますが、「油が馴染むまでは油ならしを行う」(la base)、または、「毎回使う前に、鍋を熱して油を入れて馴染ませ、余分な油を取り除いてから料理をはじめる」(山田工業所)ことが、焦げ付きやサビ防止になるようです。油ならしの手順は、各商品によって少しずつ違いがあります。必ず使用する商品の取扱説明書に従ってください。
ここでは、一般的な方法をおおまかにご紹介します。-
油ならし前の下準備。「水で内部のホコリを落とす」(釜定)、「洗剤で表面に付いたオイルを洗い流し、2~3分強火で空焚きする」(山田工業所)、「一番はじめに油ならしをする前は、空焚きしてサビ防止の塗装を焼き切ってから」(la base)など、表面の塗装などによりやり方はさまざまです。
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油ならしスタート。鍋に油を入れ点火し、煙が出る程度まで熱する。
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野菜くずなどを入れて、鍋肌全体に油をなじませるように炒め、野菜くずを捨てる。
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お湯で洗いしっかり水気を飛ばして完了。キッチンペーパーで拭き取るだけでもOK。せっかく油を馴染ませたので、洗剤などは使いません。
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煮沸
銅
「製造時に付いた油分を取るため、一度お湯で煮立てます。その際、野菜くずなどと一緒に煮るとよく馴染みます」(アサヒ)。
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水洗いする。
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水を鍋の7~8分目まで入れ、沸騰させる。
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黒く変色するのを防止
アルミニウム
アルミニウムは、酸やアルカリに弱く、水や空気に触れると黒く変色しやすいという性質があります。
また、水に反応して白い粉のようなものが出ることもあります。
どちらも無害ですが、使い始めに米のとぎ汁などを煮て、表面に膜をつくることで、黒くなりにくくなる場合もあります。
※水質などにもよるため、防止をしても、必ず黒くならないというわけではありません。また、手順については、使用する商品の取扱説明書に従ってください。ここでは、一般的な方法を大まかにご紹介します。-
食器用洗剤を使って洗い、よくすすぐ。
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お米のとぎ汁か、水に野菜くずを入れて沸騰させる。
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中身を捨て、軽くすすいだら、しっかり乾かす。
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やってはいけない使い方
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<長時間料理を入れたままにする>
鉄
銅
アルミニウム
ステンレス
フッ素樹脂加工
調理物を長時間入れたままにすると、サビなどの原因になるため、
調理後はできるだけ早く、別の容器に移すようにしましょう。
また、銅の場合、「鍋の中に料理を一昼夜入れたままにすると、 料理の表面に青い銅の化合物(緑青)ができることがありますが、無害であり、衛生的には問題ありません」(アサヒ)ということも。 -
<空焚き>
銅
アルミニウム
フッ素樹脂加工
フッ素加工は、高温に弱いという性質があり、長時間の空焚きは厳禁。 「目安は中火以下で10秒程度。煙が出るほど空焚きすると、フッ素加工が痛みます」(中尾アルミ製作所)。
銅の場合は、「空焚きすると、酸化して色が変わったり、熱伝導率がいいため、高温になりすぎて 組織が緩んでやわらかくなってしまう場合があります」(アサヒ)。
また、アルミニウムも、「本体が変形したり破損(腐食や穴あき)の原因になることがあります」(生活春秋)とのこと。 -
<金属製調理器具や金属たわしの使用>
鉄
銅
フッ素樹脂加工
金属製のものを使うことで、表面に傷がつくことがあり、素材によっては支障が出ることも。
とくに、フッ素加工のものは、「金属ヘラや鋭利なものを使うと、傷がついたり加工が剥がれたりします。耐熱樹脂や木製の料理器具を使ってください」(中尾アルミ製作所)とのこと。
鉄製の鍋やフライパンの場合、金属製調理器具は使えますが、「鍋の地肌を傷めたり傷が付く場合があるので、避けた方がいい」(釜定、la base)というところも。
商品ごとの取扱説明書をよく読んでから使用してください。
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長く使い続けるためのコツ
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<油料理を頻繁にする>
鉄
鉄の場合、気をつけたいのが赤サビ。
できるだけ頻繁に使用することで油が馴染んで、サビにくく使いやすくなるので、毎日使うことが何よりのお手入れと言えます。 -
<空焚きしない>
フッ素樹脂加工
焦げ付きにくく錆びにくいと人気のフッ素加工ですが、
高温に弱く、空焚きをすると加工が剥がれやすくなってしまいます。
そのため、空焚きは厳禁。「油やバターは火にかける前に入れます」(中尾アルミ製作所)。
また、「炒め物をするときなど、よく予熱したい場合は、鍋の半分くらいまでお湯を張り、
沸騰させることで鍋を温めます」(中尾アルミ製作所)。 -
<湯沸しで汚れを浮き上がらせる>
フッ素樹脂加工
焦げ付きにくいフッ素樹脂加工も、
「使用していくうちに、表面に油や食材がこびりついていき、
焦げ付きのもとになってしまいます。1週間に1~2回、10分程度湯沸しをすることで、
汚れを浮かし、滑らかな表面に戻します」(中尾アルミ製作所)。
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洗う
<お湯で洗う>
鉄
汚れがひどくない場合、洗剤は使わずに洗います。
「洗剤を使うと、せっかくついた油膜を落とすことになってしまいます」(la base)。
水気があるとサビやすくなるので、洗った後は、空焚きをしてしっかり水分を飛ばすことが肝心です。
急冷すると割れることもあるので、自然に冷ますようにします。
また、汚れがひどく、洗剤を使った場合は、 「火にかけて水気を飛ばしてから、必ず油を薄く塗ってください」(釜定、山田工業所、la base)。
油分が落ちた状態で置いておくとサビの原因になってしまいます。-
お湯を使い、タワシやササラなどで洗います。
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火にかけて水気を飛ばします。
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サビを予防するため、軽く油をひきます。
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<くずを取って拭き取るだけ>
銅(フライパン)
銅の場合は、フライパンなどのような「炒める・焼く」といった調理に使うものは、「せっかく付いた油分を取ってしまわないよう、なるべく洗剤は使わずにキッチンペーパーなどで拭き取る程度がおすすめです」(アサヒ)。
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<食器用洗剤をつけて洗う>
銅(鍋)
アルミニウム
ステンレス
フッ素樹脂加工
あまり気を使わなくていいのが、煮るなどの調理に使う銅鍋、アルミニウム製、ステンレス製、フッ素加工のもの。「食器用洗剤をつけてよく洗い、乾燥させてから保管します」
(アサヒ、生活春秋、中尾アルミ製作所、柳宗理)。
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やってはいけない洗い方
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<食器洗浄機の使用>
鉄
アルミニウム
フッ素樹脂加工
金属の場合、やきものやガラスのように接触による破損はあまり心配ありませんが、サビや腐食などの原因になることから、使わない方がいいとされていることがほとんど。
鉄鍋やフライパンの場合は、「強度上問題はないですが、高温のお湯や強力な洗剤で洗うことで、せっかく馴染ませた油が抜けてしまい、サビの原因になることがあります」(釜定)。
また、食器洗浄剤で一般的に使われる洗剤は強アルカリ性のため、アルカリに弱いアルミニウム製のものの場合、「変色や腐食の原因になるため使わない方がいい」(生活春秋、中尾アルミ製作所)とのこと。 フッ素樹脂加工のものも、土台が鉄やアルミニウムのものの場合、同じ考え方になります。
ちなみに、銅製のものの場合は、「シャワー式は使用できますが、水分が付いたまま放置すると、緑青や変色の原因になることがあるため、使用後はすぐに水気を取ってください」(アサヒ)とのこと。 -
<重曹の使用>
アルミニウム
焦げ落としに活躍する重曹ですが、重曹はアルカリ性。
アルミは、アルカリに弱いので、重曹を使うと黒く変色したり、
白い粉のようなものが出てきたりすることがあります。
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焦げてしまったら
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<焦げをやわらかくしてから>
鉄
銅
ステンレス
「お湯を入れてしばらく煮立たせ、焦げかすをやわらかくしてから洗います」
(アサヒ、la base、山田工業所、柳宗理)。 -
<タワシでこすり落とす>
アルミニウム
「ナイロンタワシかスチールタワシで落とします。
黒い液体が出ますが、アルミの表面が削れたものなので、洗剤で洗い流してください」
(生活春秋)。
金属製のタワシを使わない方がいいとされる金属が多い中、「アルミニウムは、磨くことで付く細かい傷がヘアラインになり、味わいが増すということもあります」(生活春秋)とのこと。
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サビが出てしまったら
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<削り落とす>
鉄
「鉄サビには毒性はありませんので、一部分がほんの少し赤くなった程度であれば、そのまま使っているうちに、油が馴染んで消えていきます」(釜定)。
ただ、大きく錆びた場合は、「細かいサンドペーパーで磨き、洗ったあと、強火で空焚きして酸化皮膜をつくり、その後油ならしをします」(la base、山田工業所)。
普段はあまり金属製のタワシの使用をすすめない鋳鉄の場合も、「スチールタワシで水洗いしながら、サビをこすり落とします。灰色の鉄の地肌が見える場合もあります」(釜定)とのこと。その後は同様に、空焚きと油ならしをします。 -
<クレンザーをつけてこする>
ステンレス
「18-18ステンレスは、普通に使っていればほとんどサビませんが、食べ物や食用油を長時間付着させておいたり、洗浄液や食塩水に長時間入れたりすると、サビが発生することがあります。その場合、スポンジにクレンザーなどをつけてこすり落とし、すすぎます」(柳宗理)。
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黒ずんできたら
アルミニウム
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「クレンザーなどの研磨剤の入った洗剤を適量付け、ナイロンタワシかスチールタワシで磨きます。その後、食器用洗剤などを使ってキレイに洗い流します。また、鍋に水を入れ、輪切りにしたレモンや柑橘系、リンゴの皮と一緒に煮沸すると、黒ずみが薄くなる場合もあります」(生活春秋、中尾アルミ製作所)。
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緑青が出てきたら
銅
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銅製のものは、酸素や水、塩分に反応して、「緑青(ろくしょう)」という緑色のサビが出ることがあります。とはいえ、緑青は無害であることが証明されていますので、あまり神経質になる必要はありません。
緑青の発生を防ぐため、銅製のものは、食材が触れる部分に錫引きやメッキが施されていることがほとんどですが、「とれたまま使用していても衛生的にまったく問題はなく、むしろ銅イオン効果が高まります」(アサヒ)とのこと。
緑青が気になる場合は、酢と塩を同量混ぜたものをスポンジなどにつけてこすり、その後水で流すと、元の赤褐色の肌が出てきます。
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<金属用語集>
- 鋳鉄(ちゅうてつ)
- 鉄を高温でどろどろに溶かし、型に流し入れることで成形したもの。
- 鍛鉄(たんてつ)
- 鉄板を「熱して叩く」を繰り返して成形したもの。叩くことで組織が締まり、強度が増します。
- 油ならし
- サビや焦げ付きを防ぐため、鍋に油を馴染ませること。鉄製の鍋やフライパンに対して行います。
- 緑青(ろくしょう)
- 銅が酸化した緑色のサビの一種。
かつては有毒とされ、鍋、フライパン、ヤカン、マグカップなどの製品の内側にはメッキを施すよう法律で規制されています。
現在では、まったくの無害と証明されていますが、法律は残り、現在でも内側にメッキを施しているのだとか。