美作めんつの工房を訪ねて
3. 民藝の心が宿る、実用の道具
![美作めんつギャラリー](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1497.jpg)
![美作めんつギャラリー](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1492.jpg)
![美作めんつギャラリー](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1487.jpg)
![美作めんつギャラリー](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1493.jpg)
![美作めんつギャラリー](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1469.jpg)
野間さんに案内され、工房に併設されたギャラリーへ。
そこには野間さんが手がけた、大小さまざまな木工製品が。
机や椅子、収納家具などの大きなものから、
細かな寄せ木細工が施されたかけ時計に標本箱、
茶筒や食器、スプーンのような小さなものまで。
めんつと同じ曲げ物である「シェーカーボックス」もあります。
その幅の広さに驚いていると、
「普通の木工の人は、こんなにいろいろなことに手を出さないですよ」と野間さん。
「木に関することなら何でもやってます。つまり何でも屋ですね。
つい興味が湧いて、新しいことやりたくなっちゃって」と笑います。
1960年に、美作市から一山越えたところにある
兵庫県姫路市で生まれた野間さん。
ものづくりをしたいという想いで、
20歳の頃に別注家具の会社に入社。
そこから現在58歳になるまで、
30年以上木工の仕事に携わっています。
美作市に移ってきたのは1994年。
合併して美作市になる前、野間さんの工房のあたりは
東粟倉(あわくら)という村でした。
当時、東粟倉村は「現代玩具博物館」をオープンするなど、
木製を中心としたおもちゃや、そのつくり手を集めていました。
その一環で、おもちゃだけでなく
木工をやっている人向けに、工房をオープン。
野間さんは木工職人として独立し、工房を借ります。
独立後は、無垢材を使ったオーダーメイドの家具を中心に製作。
専門外のものでもどんどんつくって、幅を広げてきました。
そんな中で2016年に興味をもち、
つくりはじめたのが、めんつでした。
![鉋をかける野間さん](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1245.jpg)
時代に即しためんつの誕生
![復刻した両めんつ](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1181.jpg)
▲奥が古いめんつ。手前はそのめんつを見本に、野間さんがつくったもの。
つくり手がいなくなり、一度は技術が途絶えためんつ。
その復活に、野間さんはたくさんの壁にぶつかりました。
「もう誰もつくり方を知っている人はいなかったからね。
教えてくれる人も、相談する人もいません。
手がかりにできたのは、自宅の蔵にあった古いめんつだけ」。
古いめんつを見本に、同じようにつくってみますが、
なかなかうまくいきません。
「とくに苦労したのは、隙間なく蓋板と底板をはめること。
昔は、ちょっとくらい隙間があいてたって、
基本的にご飯だけ、または梅干やたくわんなど、ちょっとしたおかずを
一緒に詰めるだけだから、漏れちゃうことはないと思うんです。
でも今の人はいろいろなおかずを入れるし、少し汁気があることも。
それが漏れてしまうと、困ってしまいますよね。
だから、漏れないつくりにすることには、すごく気をつかいました」。
![野間さん](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1369.jpg)
秋田など他の地域では、曲げ輪よりも大きなサイズの板を、
貼りつけるだけの曲げ輪っぱもあります。
このつくり方なら、何度も板のサイズを微調整して、
曲げ輪のなかにはめる手間は不要。
しっかり接着するだけで、漏れの心配もありません。
それでも野間さんが今のつくり方にこだわるのは、
なるべく美作伝統のつくりを大事にしたいという想いから。
そしてそれ以上に難しかったと言うのが、檜の曲げ加減の調整です。
「杉の曲げ物の場合、型を立てて、それにしっかりと巻きつけるように曲げるのが主流。
でも檜で同じようにやると、どうしても型崩れを起こして、
きれいな小判型にならなくて」と振り返ります。
「お湯の中で曲げてみたり、いろいろ試したけれど、
結局は横に倒した型に巻きつけるように一気に曲げる、
今のやり方が一番上手くできました。
ここにたどり着くまでが長かったな」。
![接着](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1288.jpg)
また、接着剤にまつわる葛藤もありました。
お弁当箱に使う接着剤は、安全であることが絶対条件。
しかし、野間さんが納得できる安全性が保証された接着剤が
なかなか見つかりませんでした。
そこで野間さんが試したのは、
炊いたご飯粒を練って接着剤にする「続飯(そくい)」という昔の技法。
「米でつくった続飯なら安全面は大丈夫だけれど、
米を練る作業は想像以上に大変。
おまけに塗りにくいし、耐水性がないから洗えないし。
これじゃあ何個もつくることはできないって諦めました」と頭をかきます。
![復刻した両めんつ](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1481.jpg)
▲昔のめんつは続飯で接着されていたため、現代の接着剤と比べると接着力が不十分。
それを補うために、竹串を釘のようにして打ち込んで、板を固定していたそう。
安全で、耐水で、使いやすい接着剤。
意外にも日本製では見つからず、
最終的に野間さんが「これなら」と思えたのは、アメリカ製のものでした。
日本より審査が厳しいとされる「FDA(アメリカ食品医薬局)」の基準をクリアし、
まな板など食品まわりでの使用の安全性が確認されているそう。
「この接着剤なら安全性が証明されているし、
水にも強く、使い勝手もいい。
接着力もすごくて、ちょっと板をはめるのに失敗して外そうとしても、
全然外れなくて壊してしまったことも。
そのくらいしっかり接着できて、頑丈なんです」。
![今の美作めんつ](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/2_8589.jpg)
▲余計な飾り気のない素朴な姿は、昔のめんつそのまま。
昔は蓋と身の両方にご飯を入れていたので、たくさん入るよう蓋を深くしていましたが、
現在ではそのような使い方をしないため、蓋の浅いタイプ(左)も製作しています。
約3ヵ月かけてめんつを復活させた野間さん。
漏れずに、安全で、丈夫。
昔ながらのめんつのつくり方を踏襲しながらも、
今の人たちの求めに応じて改良を加えているのです。
元々めんつがもつよさに、野間さんの工夫が加わって生まれた「美作めんつ」は、
少しずつ愛用者を増やしています。
そして2017年には、
暮らしに役立つ工芸品が選ばれる「日本民藝館展」に応募。
見事、出品した「美作めんつ」5点すべてが入選するという快挙を果たしました。
その使い勝手のよさや飾らない美しさが、専門家からも認められたのです。
使ってうれしい、つくってうれしい
![乾かしている美作めんつ](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1221.jpg)
現在は、家具製作とめんつづくりの両輪で活動している野間さん。
少しずつめんつの注文が増えてきて、
今では同じくらいの仕事の割合になっているそう。
「オーダーメイドの家具は、ある程度高級だから持つ人が限られるけれど、
お弁当箱はもっと身近なみんなのもの。
持っているだけでうれしい、使って楽しい、お弁当を食べて幸せを感じる。
そんな風にたくさんの人に思ってもらえるものって、
数ある道具の中でもそんなに多くないと思うんです」と、
「美作めんつ」をつくる喜びを明かします。
![作業中の野間さん](http://gigaplus.makeshop.jp/cotogoto/site_data/cabinet/special_issue/kobo/mentsu/_MG_1415.jpg)
「美作めんつ」という名を掲げ、地元のめんつづくりを復活させた野間さん。
今後はつくり手を増やし、
もっと「美作めんつ」の知名度を上げたい……。
そんな風に考えているのではないかと尋ねてみると、
「『美作めんつ』の名を広めたいという気持ちはそんなにない」という意外な答えが。
名を広めるよりも、大事なことがある。
そんな野間さんの姿勢は、
「美作めんつ」にサインなどの名前を入れていないところにも現れています。
「『焼印でも入れたら?』って言う人もいるけれど、
なくても何にも問題ないでしょう。
名前よりいい道具であることが大切」という野間さんの強い言葉が響きます。
使うほどにそのよさを実感できる道具をつくることに、何よりも重きを置いているのです。
「日本民藝館展」で入選を果たしているように、
「美作めんつ」は、まさに「民藝品」と呼ぶに相応しいのかもしれません。
名を上げることを目的としない職人の手から生み出された、日常の生活道具である民藝品。
土地の風土から生まれ、生活に根ざし、用に即した健全な美が宿っています。
野間さん自身も、「『美作めんつ』は飾り気なく、実用一辺倒だけれど、
使って人が喜んでくれるもの。
たしかに民藝の心に通ずる部分がありますね」とうれしそう。
この先も、野間さんが1人でつくっていく予定という「美作めんつ」。
「まあ、でも需要があれば、
ゆくゆくは若い人を雇って技術を教えなきゃいかんなあ」と、悠々と笑う野間さん。
これからもその気負わない姿で、人々の求めに応じたものをつくり続けてくれるはずです。