ガラ紡が生きるものづくりを訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト
工房訪問 ガラ紡が生きるものづくりを訪ねて

2020年11月公開

手紡ぎの原理を動力化した、日本生まれの紡績機「ガラ紡」。
明治初期に発明されるも、明治中期には高速で紡げる洋式の機械の登場で衰退。
表舞台から姿を消していたガラ紡でしたが、今また注目が集まっています。

ガラ紡でしか紡ぎ出すことのできない、ゆるく空気をたっぷり含む糸。
その糸で織られたものは、軽くてあたたかく、やさしい肌ざわり。
このガラ紡ならではの独特の風合いを持った糸が、
肌に直接身につける下着や靴下、ストールなどのアイテムに使われ、
人気を博しているのです。

一度は消えかけた「ガラ紡」に息を吹き込み、
新たなものづくりの世界を広げるつくり手が、
愛知県一宮市にある「木玉毛織(きたまけおり)株式会社」です。
希少なガラ紡を見せてもらうため、木玉毛織の工場を訪れました。



 

1.幻の紡績機、ガラ紡のこと

軽くてあたたかい、ガラ紡糸の魅力

▲ガラ紡で紡いだ糸。手紡ぎのような素朴なムラが

「ガラ紡」とは、明治6年に長野県安曇野生まれの発明家・
臥雲辰致(がうん たっち/ときむね)によって発明された糸を紡ぐ機械のこと。
日本で発明されたことから「和紡(わぼう)」とも呼ばれます。
綿を回転させながら上に向かって引き伸ばし、撚(よ)りをかけて巻き取っていく、
手紡ぎの原理を動力化したシンプルな紡績機です。

ガラ紡で紡がれる糸は、
現在私たちが目にする綿糸とはだいぶ様子が異なります。
太くて、ところどころポコポコとしたふくらみがある、手紡ぎのような素朴な佇まい。
空気をたっぷり含むから軽くてあたたかく、やわらかい。
このガラ紡糸ならではの風合いを生かし、さまざまなアイテムがつくられています。

▲ふわふわとやわらかいうえに、綿だからちくちくしない滑らかな手触り。ヘリンボーン柄の「アイボリー×インディゴ(スノアンドモリソン)」。

福岡を拠点とするブランド「スノアンドモリソン/Suno & Morrison」は、
2012年から木玉毛織と「ストール」やバッグなどを製作。

▲三角が生まれる独特な織り目の、2020年の新作「トライアングル」。ガラ紡糸で織られているため、ふっくらボリュームが出ます。

▲ワッフル状に織られた「ミディアムストール」の「サンド」。

「ストール」を肩にかけると、ふっくら厚手なのに
羽衣のような軽さに驚きます。
しっとりとしたあたたかさがあるので、
秋冬の防寒にも遜色ありません。
綿だから、春先や夏場の冷房対策にも心地よく、
ちくちくしないので肌が敏感な人にもおすすめなのです。

▲「オーガニックガーデン/ORGANIC GARDEN」の「ガラボウソックス」。左から「スニーカーソックス」の「チャコール杢」と「生成り」、「レギュラーソックス」の「チャコール杢」と「生成り」。

靴下の生産日本一を誇る奈良の靴下ブランド
オーガニックガーデン/ORGANIC GARDEN」の「ガラボウソックス」にも、
木玉毛織のガラ紡糸が使われています。
ふっくらとしたガラ紡糸を編み上げ、クッション性が高くて足が疲れにくいと評判。
あたたかいけれど蒸れにくいのも、靴下としてうれしいポイントです。

▲ガラ紡の別称は「和紡(わぼう)」。「和」を訓読みすると「にこやか」になることから、「ニコリ/nicori」というブランド名に。

木玉毛織でも、自社ブランド「ニコリ/nicori」を展開。
ベビーグッズをはじめ、肌着や寝具、タオルなど
肌に直接触れて心地のいいアイテムを生み出しています。
ガラ紡糸は、使い込むほどに吸水性が増し、
タオルや布巾の素材としても適しているとか。


暮らしの布に仕立てたとき、たくさんの利点があるガラ紡糸。
その糸を紡ぎ出す、明治初期に発明されたという「ガラ紡」とは、どんなものなのでしょう。
わくわくする気持ちでさっそく工場を覗かせていただきました。

「ガラガラ」音がするから、ガラ紡

▲奥から手前まですべてが一つのガラ紡の機械。

▲わたの入った細長い筒「綿筒(わたづつ)」が300錘(すい)、一斉に回転しています。

工場に入ると、ガラガラ、ガラガラと音がします。
奏でているのが、目の前に現れた横に長い機械。
それがまさに紡績機・ガラ紡でした。

▲各綿筒から糸が伸び、上へ上へと紡がれています。

回る細長い筒から糸が伸びています。
「ブリキの筒を『綿筒(わたづつ)』と言って、これで300錘(すい)あります」
と教えてくれたのは、
木玉毛織の専務・木全育睦(きまた のぶちか)さん。
300錘が一斉にガラガラと音を立てて糸を紡ぐ姿は圧巻です。
そしてその音こそがガラ紡の名前の由来になったのだとか。

ガラ紡の原理はごくごくシンプル。
わたを上に引き上げながら回転させ、撚りをかけていきます。

▲モーターで一斉に動いているようでいて、一錘一錘は回転したり止まったり、別々の動き方をしているのが有機的。綿筒はブリキ製ですが、その下の台は木製。

わたをひいているうちに、綿筒とわたの摩擦で鐘が上に持ち上がっていきます。
そうすると糸が切れないよう綿筒の回転が止まるようにできていて、
綿筒が回転しないので糸に撚りがかからず、その部分だけがわた状に。
しばらくするとまた綿筒が下に落ちて回転がはじまり、撚りがかかっていきます。
これがガラ紡糸の太さがまちまちになる理由だったのです。

  • ▲各綿筒には重りがついていて、その場所を調整することで糸の太さを調整します。

  • ▲綿筒と綿筒の間に見えるバームクーヘンのようなものが、綿筒を動かすためのローラー。それが紐で綿筒につながれ、ローラーが回転することで綿筒が動く仕組み。

各綿筒には重りがついていて、重りの位置で綿筒の持ち上がりやすさを調整します。
持ち上がりやすいと綿筒がすぐ止まり、糸が撚られないのでわた状の部分が多くなるなど、
重りの位置が糸の風合いに関係するのです。
よく考えられているなあと思わず感心してしまいます。
つまりは素人にも体感的に理解できる、なんともアナログな機械なのです。

さらに、機械といえどもすべて自動というわけではなく、
稼働中は3人体制で職人がつきっきりに。

▲綿筒に撚子(よりこ)を押し込みます。撚子三つで約1巻の糸ができ上ります。

▲撚子を綿筒に差し込むための竹製の道具。

綿筒に入れやすいように細長い円柱形にわたを整えた
「撚子(よりこ)」がなくなると、
竹製の道具に撚子を挟んで綿筒に詰め込む人が必要です。

▲切れた糸端は、回転する撚子に当てているとまたつながります。

糸が途中で切れてしまうこともしばしば。
そんなときは、切れた糸端を撚子に当てながら綿筒が回転するのをしばらく待つと、
またつながります。
新しい撚子を入れたときも同じ作業を行います。

  • ▲ガラ紡の仕組みを説明してくださる専務の木全育睦さん。

  • ▲ひいた糸は、ガラ紡の一番上で巻きの状態に。

「わたから直接糸がひける紡績機はガラ紡だけ。
スピードが速いと糸がちぎれてしまうので、ゆっくりとしかひけません。
だから、基本的に1日8時間稼働して、でき上がる糸は10㎏。
月200~250㎏が精いっぱいです」と専務。
糸10㎏は、「スノアンドモリソン」の「ブランケットストール」(W190×H100cm)
に換算すると約25枚分。
製品にするにはあまりにも少なく、
量産が求められる時代に洋式の速い機械に取って代わられたというのもうなずけます。

部品もブリキや鉄に交じって木や綿紐があちこちに使われていて、
おおよそ精密機械とは対極にある佇まいです。
「基本的に大工仕事なんですよね。精密機械じゃないから直せます。
普段は工場長がメンテナンスを行っていて、
何か困ったら繊維系の機械に詳しい人にお願いしています。
ガラ紡はまだいいんですけど、壊れたら本当に困るのはこれ」と専務が指したのが、
ガラ紡の隣にあった大きな機械。

わたを再生し大切に使い切る

▲機械の外装はなんと木製。大正末期から昭和のはじめにつくられたのではという話。

これもまた、なんともレトロな佇まい。
わたを解して鐘に入れやすいよう撚子のかたちにする「給綿制御装置」です。

  • ▲原料となるわた。

  • ▲回転しながらわたを解します(1)。

  • ▲回転するローラーでわたの向きを揃えます(2)。

  • ▲わたを平らにならします(3)。

  • ▲筒状にかたちを整えます(4)。

  • ▲ローラーに巻き込んで引きちぎり、撚子のでき上がり(5)。

わたを攪拌してほぐし(1)、ローラーで回転しながら繊維の向きを揃えます(2)。
それを布団の真綿のように平らに広げ(3)、鐘に入りやすいよう筒状に(4)。
繊維を断ち切らないようにローラーで引きちぎって撚子の完成(5)。

3の工程で使われている部品は、なんと竹のすのこ。
電動の機械に竹が使われているのをはじめて見ました。
「1回壊れたけれど、同じように竹を買ってきて竹ひごをつくって直したの。
ガラ紡とこの機械はセット。でももう部品が手に入らないから、
撚子ができなくなったらガラ紡も動かせません」と専務。
なんとも危うい話ですが、ゆっくり糸を紡ぐガラ紡と
やたら大きくて古めかしい給綿制御装置の組み合わせは、
なんだかのどかな光景です。

木玉毛織では、100%オーガニックコットンを使用。
オーガニックコットンを扱う大手紡績会社「大正紡績株式会社」から
わけてもらっています。
その中には、従来の高速紡績の際に振り落とされる「落ちわた」も含まれます。
もともと繊維が短い和綿用に開発されたガラ紡には、繊維が短い落ちわたは好都合。
本来廃棄されてしまう落ちわたを積極的に引き受け、ガラ紡の大切な原料としています。

「ガラ紡でひいていて小さくなったわたは、
またここに戻してもう一度撚子にして使います。
撚りが入らなければ、何度でも再利用できるんです」と専務。
撚ったけれど切れてしまった糸の端切れなどは、
クッションの中わたにするなどして使い切るのだとか。

ゆっくり紡いで、ゆっくり織る

▲ドイツのションヘル社のシャトル織機だから「ションヘル機」。

ガラ紡で紡がれた糸が製品になるまでには、まだいくつもの工程があります。
例えば「スノアンドモリソン」の「ストール」の場合、
糸を染め、織り、洗いや風合いを出すための「整理」という工程、
そして縫製を経てでき上がります。

ガラ紡を有する木玉毛織は、ガラ紡糸を紡ぐところと一部の織りを担当。
後は外に出して連携しながら製品に仕立てていくのです。
木玉毛織が工場を構える愛知県一宮市は、世界的に知られる毛織物の一大産地。
紡績から縫製まですべてが産地内で賄え、さらに細かく分業化された世界。
木玉毛織のガラ紡でのものづくりも、その産地の仕組みの中で行われているのです。

ゆっくりとガラ紡でひかれた糸は、現在の高速織機ではすぐにちぎれて織れません。
そこで木玉毛織では、「ションヘル機」と呼ばれる古いシャトル織機を使用。
「昭和20年代後半から40年代後半まで、この地方で一番使われていたもの。
生産性が悪いというので、速い機械に替わっていき、
もうほとんど使われなくなっています」と専務。

まず織る前に、縦糸を真っすぐに揃える「整経(せいけい)」という作業があります。
今回たまたまその作業を見ることができました。

▲後ろにある小さな糸巻から1本ずつ糸を引き出しまっすぐに並べなおす「整経」の作業。

▲この道60年以上のキャリアを持つ職人。小さな機屋の場合、整経はお父さん、織りはお母さんと分担作業で、お父さんの仕事は朝のうちに終了。そして、午前中から喫茶店でゆっくりする人が多かったことが、一宮から名古屋のモーニング文化が生まれた所以だとか。

紡いだ糸を1本1本引き出して真っすぐ揃え、太い筒に巻きつけていきます。
全体がきれいに平らになるようにする調整が勘どころで、
布のできのよし悪しはこの整経で決まると言われています。

▲複数枚連なる「綜絖(そうこう)」。経糸の動き方を決め、布の模様をかたちづくります。

整経された糸は、さらに別の道具に巻きなおされてションヘル機へ。
まるでクジラの歯のように無数に針金が並んだものを「綜絖(そうこう)」と言い、
綜絖が持ち上がることで経糸が上に上がり、横糸が通る隙間ができるという仕組み。
2000本並ぶ針金1本1本に経糸をセットしていきます。

▲横糸を渡す杼(ひ)。英語で「シャトル」。

それが済んだら、いよいよ織る作業。
綜絖が持ち上がるたびに、木製の杼(ひ)、
つまりシャトルが左右に行ったり来たり。
シャトルに横糸がついているので、
布が織り上がっていきます。

ガチャンガチャンというくらいの速度でゆっくり織れるから
ちぎれやすいガラ紡糸に向いているというだけでなく、
このシャトルが行ったり来たりすることで
織り上がった布の両端に「セルビッチ」と呼ばれる耳ができることが特徴です。

このションヘル機も、現在は製造が終了。
今ある機械を直しながら使い続けるしかありません。
ガラ紡もションヘル機も生産量が少なく効率が悪いと、
競争に負け徐々に姿を消して行った機械。
とくにガラ紡は、常時稼働しているのは木玉毛織くらいではないかと言われるほど。

ところで、そもそも社名に「毛織」とある木玉毛織が
綿を紡ぐガラ紡を取り扱うことになったのはなぜなのでしょうか。

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