工房訪問 Lueの工房を訪ねて

2020年1月公開

 

真鍮を使ったカトラリーや雑貨を製作する「ルー/Lue」。
柄がひょろりと細いカトラリーをはじめ、
手がけるアイテムはどれも、独特なかたち。
実用的ともちょっと違う、
どちらかというとアクセサリーのような、甘美な魅力を感じさせます。
いったいどのような人が、どのような想いでつくっているのでしょう。
岡山県瀬戸内市にある工房を訪ねてみました。



 

1.Lueのこと

食卓を“飾る”カトラリー

▲工房の周りは兼業農家が多く、田んぼが広がっています。

岡山駅で新幹線を降り、在来線に乗り換えて25分。
そこからタクシーを拾って工房を目指すと、あたりは一面田んぼが広がるエリアに。
昔ながらの瓦屋根の家がポツポツある中、
大きな窓が目を引くキューブ状の建物がありました。

▲田んぼの中で異彩を放つキューブ状の建物が、納屋を改装してつくったLueの工房。友人の建築家がリノベーションを手がけました。

タクシーを止めると、そこがやはり「Lue」の工房。
まるで現代アートのギャラリーのような、おしゃれな佇まいに圧倒されていると、
Lueの代表・菊地流架(るか)さんが出迎えてくれました

  • ▲Lueの代表・菊地流架(るか)さん。

  • ▲入口を入ると、作業場の横を細い廊下が奥まで続き、二階のショップへと上がる階段につながります。

2006年に1人でLueをはじめた菊地さん。
最初は県内の別の場所にある実家の倉庫で作業をしていましたが、
2010年にここ瀬戸内市の奥様の実家に移転。
「1人でやることを想定していたから、もともと作業場はすごく小さかったんです。
そのうちスタッフも増え、友達の建築家に古い納屋を改装した
現在の工房をつくってもらいました」と菊地さん。

▲工房の2階は店舗スペースに。柱や天井は元の納屋を活かしたつくりです。

  • ▲2階の大きな窓からも気持ちのいい景色が広がっています。

  • ▲ランプシェードなども真鍮製。真鍮の経年による色合いが、空間に落ち着いた雰囲気を演出しています。

工房の2階は、大きな窓が開けた店舗スペースで、
菊地さんの友達が手がけるブランドの服や、
カトラリーを中心としたLueのアイテムが並びます。

▲店舗スペースに並ぶLueのカトラリー。スプーンもフォークも細い柄が特徴的です。

きらり、というよりもとろりという表現が似合う真鍮の落ち着いた輝き。
かわいらしい丸みのある匙や串部分の先に、
極端に細い柄が伸びる独特のかたちをしたカトラリーは、
絶妙なバランスで美しく、器に添えると食卓の雰囲気がすっと変わります。
それはまるで、シンプルなブラウスがブローチ一つで洗練された装いになるかのよう。

▲「ティースプーン」。シンプルな器に添えるだけで、特別な雰囲気を演出してくれます。

▲「よつばフォーク」。スプーンの匙部分を切り分けてフォークにしたような、独特なかたち。



導かれるようにはじめた

2006年にスタートしたLue。
そもそもなぜ真鍮を素材にしたのでしょうか。
「うちの両親が真鍮でアクセサリーをつくっていて、
その手伝いからはじめたというのがあって。
真鍮は経年で色が変わっていくところが
やっぱり素材としてはおもしろいのかなと思っています。
かた過ぎずやわらか過ぎず、粘りがあって加工しやすいというのもあります」。
菊地さんのご両親は、「エッチング」という
薬品による真鍮の腐食作用を利用した技法でアクセサリーを製作していました。

▲ご両親が手がけていたアクセサリー。エッチングという技法でつくられています。

菊地さんも17歳の頃からそのアクセサリーづくりを手伝っていたのだとか。
「倉敷の美観地区ってわかりますか?
今はもう少ないけれど、昔は倉敷川の川沿いでヒッピーがものを売っていて、
うちの親はその1人だったんです」。

結婚して子どもが生まれたことを機に23歳で独立。
Lueを立ち上げました。
ものづくりの世界において、
23歳という若さで自分のブランドをはじめる人はそう多くはないはず。
「高校を中退して、親のアクセサリーづくりを手伝っていたけれど、
そろそろ自分で何かしないといけないかなというタイミングでした。
ちょうどその頃病気だった父が亡くなり、
独立せざるを得なかったというのもあるかな」。
とはいえ、ご両親のアクセサリーづくりをそのまま継承はしませんでした。
「アクセサリーは父のつくっていたものだったから自分のデザインではなかったし、
それでやっていける自信がなかったんです。
ずっと父のところでしか働いたことがなかったですし、
どっかの学校に行っていろいろなデザインを勉強したというわけでもなかったので。
その当時は、アクセサリーだったら、
父のやっていることの延長線上でやらないといけないと思っていたのかもしれません。
だから違うジャンルに行こうとしたんだと思います」。

美しいことが一番大事

▲Lueで一番はじめに生まれたのが「ティースプーン」。

そこで菊地さんが選んだのは、元来料理が好きだったこともあって
スプーンをはじめとするカトラリーでした。
一番最初に生まれたアイテムは、
少し横広の匙部分と細い柄という独特のかたちが特徴的な「ティースプーン」。
Lueの魅力の一つである現在まで続くこのスタイルが
どのように生まれたのかを尋ねると、
意外な答えが返ってきました。
「独立するとなったときに父が、
『こんな感じがいいんじゃない?』とつくってくれたかたちなんです」。
見た瞬間、菊地さん自身「これがいいな」と思ったのだとか。
私たちが今感じているLueのアイテムの魅力に一番最初に魅せられたのは、
ほかでもない菊地さん本人だったのです。

▲現在cotogotoでお取り扱いのあるカトラリー。上段上から「ティーサーバー」、「コーヒーサーバー」、下段左から「よつばフォーク」、「カレースプーン」、「フルーツフォーク」、「ケーキフォーク」、「ティースプーン」、「デザートフォーク」、「デザートスプーン」、「スポーク」、「ディナーセット」。

そしてきっとこのときの感覚が、
その後続くLueのものづくりの中で大切にしていることにも
通じているのではないでしょうか。
「つくっていくうえで、使いやすさ重視というよりは、
美しいことが一番大事かなと思っています。
もちろん最低限の使いやすさはあるけれど、
まずはそのもの自体の存在を大切にしているところはあるかな」。

最初の1年目くらいまでは、
奥様をはじめ周りの人々の「柄が細過ぎて使いづらい」という声を聞き、
試行錯誤した時期もあったそう。
でも、「柄をすごくぶっとくつくってみたこともあるんですけど、
まあ大して使いやすくもならないし、ものすごく不恰好なんですよ。
柄が細くても、使いづらいと思っているから使いづらいだけで、
慣れちゃえばそんなこともないよなと、
結局元のかたちに戻しました」と笑います。
カトラリーのように暮らし周りの道具において、
使いやすさにしのぎを削るつくり手がいる一方、
佇まいの美しさにより重点を置く菊地さんの視点は、新鮮に映ります。

美しさと言っても、何を美しいと感じるのかは人それぞれ。
難しい質問であることは承知のうえで、
「自分の美しさの基準に影響を与えたものはありますか?」と問うてしまいました。
「あんまりもの自体をしっかり覚えちゃうとそのものに影響され過ぎちゃうから、
いろんなものをさらりと見るようにはしているんです。
でも覚えているのは、マティスの『ブルーヌード』かな。
絶妙なバランス感覚とか、かたちとか、これはすごいなと思って、
それからある程度いろいろ絵を見るようにしました」。

抽象主義の画家として知られるアンリ・マティスの「ブルーヌード」は、
女性の体のシルエットを切り絵で表現したマティスの最高傑作と謳われるもの。
キャンバスが窮屈に見えるくらい、のびやかな線とかたちが印象的です。
そんな話を聞いてしまうと、
Lueのアイテムが持つ美しさの秘密を、少し覗けたような気がしました。
ころっと丸い匙に細い柄という、
アンバランスぎりぎりの絶妙なバランスが、人を惹きつけるのかもしれません。

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Lueと十場天伸 二人展―真鍮とスリップウェア―

2月14日(金)~25日(火)
Lueと十場天伸 二人展―真鍮とスリップウェア―


岡山県で真鍮のカトラリーなどを手がける、菊地流架さんのブランド「Lue」と、兵庫県でスリップウェアを中心に日常の器を作陶している十場天伸さん。実は同じ高校に通っていたというお二人は、異なる素材を扱いながらも、ものづくりという同じ舞台で活躍されています。上質な真鍮のカトラリーと、あたたかみのあるスリップウェアの器は、食卓に並べても一体感が出ます。今回はLueの定番のラインナップが全て揃い、また十場さんからは約150点の器が届きます。さらに今展限定で、十場さんの陶板にLueの額縁をつけた、特別な作品もつくっていただきました。

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