くるみガラスができるまで-前編-
工房におじゃまして、cotogotoで扱っている「くるみガラス タンブラー」の
できる行程を見せていただきました。
ただでさえ暑い季節、工房の中は窯の熱気でものすごい暑さです。
まずは必要な道具を揃えていきます。
ガラスを吹くのに欠かせない、「吹き竿」(写真・右)。
工房にある何本もの吹き竿は、太さも長さも様々。一番太いものは、持つだけで重いのですが、
その竿がしなるほど重いガラスの塊が先端につくこともあるそうです。
使い込まれた竿には、ツルツルとした輝きがあります。
高温の窯の中で、先端も少しずつ焼き切れてしまうそうで、
使い込むごとに長さも短くなってしまうのだとか。
写真・左はタンブラーの模様を出す「モール型」。重厚で存在感のある型です。
そして何百もの作品の情報が詰まっているであろうスケッチブックの束。
タンブラーのページを探し出すと、その情報をもとにいくつかの道具をセットしていきます。
ハサミの先端半分だけを残したような道具はコンパスで、定規で長さを測り、開きの幅を決めます。
他に大きなトングのようなもの、木の切れ端、こげた新聞紙。
これが道具?というようなものも、この後の作業に欠かせない大切な道具たち。
そのどれもが使い込まれて、鈍い光を放っています。
これで道具が揃いました。
工房に入ったとき、一番最初に目に飛び込んできた、
縦2メートル、横3メートル、高さ1.5メートルほどの、
まるで雪でできた「かまくら」のような真っ白で大きな窯。
見た目とは裏腹に中の温度は1140度まで上がるのだそうです。
窯には丸く小さな扉が二つ、別々の側面にあり、
そのひとつを開けただけで室内の温度が一気に上がります。
次は、つくり始める前に、ガラスの「種」の様子を確認します。
まず、窯の片方の扉から、ペットボトルに入った水をさっとかけるように入れました。
これは「泡切れ」と言って、ガラスの表面に浮いている泡を消す作業。
その後、吹き竿の先で、少量のガラスを
すくい取るようにして取り出しては、
脇にある台の上でささっと丸めて、
水の入ったバケツの中に「じゅっ」と
いう音とともに沈めます。
窯から出たばかりのガラスの塊は、
熱をもったまさに「橙」色。
何度か同じ動作を繰り返す将樹さんは、
ガラスの状態を見極めているようです。
側の台の上に置かれていた橙色の塊は、
冷えるにつれ、ゆっくりと薄緑の涼しげな色に
変わっていきます。
ガラスの「種」の準備も万端のようです。
いよいよガラスを吹く作業です。
「ここからその『鉄リン』のところまで行って、
次はこっちに行って、その後はそっちです」。
ガラスが熱いうちに行われる、時間勝負の作業。
動き方を先に教えてくれました。
一瞬の緊張感。
まずは先ほどの窯の入り口に、吹き竿を差し込み、
火の塊にも見える赤々としたガラスの種を先端に付けて取り出します。
そのまま「鉄リン」という厚手の鉄のボウルのような容器の中でガラスの種をころがし整えます。
そして、瞬きをしていたら見逃してしまいそうな速さで、
吹き竿にフッと息を吹き込むと、橙の塊は一瞬にしてきれいな丸に変わりました。
まるで電球が一瞬にして灯ったように。
迷いのない動きで、木製のいすに座り、肘掛に取り付けられている鉄のレールの上で
竿をころがします。
熱されたガラスの種は柔らかいため、吹き竿を転がす手が止まることはありません。
準備してあった道具を手際良く手に取り、形を整えて、風をあて徐々に冷やします。
ここまでが、「半玉」とよばれる、タンブラーの基礎となる部分の工程です。
そして、窯のもう一つの扉に竿を差込みました。
新たなガラスの層を「半玉」に巻き付けるのです。
それを再び鉄リンの中で整えて、今度は「モール型」に真上からそっと入れ、フッとひと吹き。
取り出すと、凹凸ある縞模様が器に刻まれています。
くるくるっとテーブルの上で転がして、再度、形を整えます。
さらに窯で再び熱し、今度は椅子の脇にあった道具を使って、タンブラーの底面を整えます。
底ができたら今度は側面。大きなトングのような道具で、モール型でつけた凹凸を整えながら
ぐるぐるとタンブラーを回していきます。
柔らかいガラスが崩れないよう、絶妙な力加減で成形していきます。
そして時々、コンパスを取出し、タンブラーの直径が合っているか、確認するのです。
将樹さんの手元は休むことなく常に竿を回し続けています。
熱しては、型を整え、冷えてきたらまた熱して……の作業が何度も行われます。
縦、横、直径、コンパスを使って、常にサイズを計りながら。
時折、立ち上がって、竿を垂直にくるっと廻すのですが、
それにはガラスを「伸ばす」意味があるのだそう。
熱い塊が、事もなげに地面すれすれのところをかすめていきます。
そのダイナミックでありながら、
危なげない、そしてさり気ない動作の一つひとつに意味があり、
一瞬も無駄にされていないということがわかります。
それでも「今日はいつもより余計に回しています(笑)」なんて、
時折、冗談を挟みながら。
けれど、その手元には寸分の狂いもないのです。
体が記憶している熟練の技がありました。
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