特集 高橋工芸の工房を訪ねて

2. つくったもの、木への想い

2代目・秀寿さんが生み出した、Kami glass。
会心の出来にも関わらず、斬新過ぎるあまりに、発売当初は見向きもしてもらえなかったそうです。

Kamiシリーズの紙のような薄さ

「展示会に出しても、『こんなに薄くて大丈夫なの?』と不安そうに見つめる人ばかり。
『木なのに紙のように薄い』という既成概念を覆すようなコンセプトに混乱する人が多くて、
なかなか取り扱いが決まらなかったんです」。

それでもKami glassの可能性を信じていた秀寿さん。
根気強く展示会に出展したり、専門家に直接見せたりするなかで、
徐々に理解が広まり、販路を獲得していきました。
紙のような薄さでも十分な強度があり、厚手の木の器にはない口当たりの良さ。
そして何より、高度なろくろ技術を有する高橋工芸でしかつくれない繊細な仕上がりに、
次第に評価は高まっていきます。

デザイナーとの取り組み

Kami glassをきっかけに、新たな一歩を踏み出した高橋工芸。
2008年からは、外部のデザイナーと組んで商品開発をスタートさせます。

デザイナーと共にものづくりに取り組む。
伝統のあるつくり手のなかには、嫌がる人もいる行為です。
しかし秀寿さんは、つくり手だけではつくれないものがあると考えます。
「つくり手はつくりやすいものを第一に考えてしまうんです。
デザイナーはつくり易さは二の次で、斬新なものを提案してくる。
自分たちだけでは絶対に生まれなかったアイデアばかり出てくるんです」。

デザイナーが提案してくるものは、とんでもなく効率が悪かったり、
今までのやり方を根底から覆されるような内容もあるそう。
「それでも『できない』とは、やっぱり言いたくなくて。
デザイナーの予想を超えるものをつくってやろうと頑張っちゃうんです。
職人の意地ってやつですね」。


最初に組んだデザイナーは、旭川市工芸センターが主催する
講習会を通じて出会った小野里奈さんでした。

小野さんのデザインと高橋工芸の技術が合わさって生まれたのが「Caraシリーズ」。
ふんわりとまるい卵を連想させるシリーズです。
なんと全ての商品が、実際にトレースした卵のラインを元にデザインされています。
ディッシュやプレートなど食べ物の器が中心で、柔らかな曲線が優しく手に馴染みます。

木材は、やわらかい黄味がかったシナを選択。
しかし、まわりの同業者には非常に驚かれたと言います。
「シナというのは一般的にベニヤ板に使われる木で、工芸品には使われない木なんです。
でもシナを使ってCaraシリーズを試作してみると、まさにイメージどおりの仕上がりで。
僕もデザイナーの小野さんも気に入っちゃって、そのままシナを使っています」。


その約半年後、小野さんの紹介で組んだデザイナーが、「Oji & Design」の大治将典さんです。
大治氏の協力を得て、Kami glassを「Kamiシリーズ」としてシリーズ展開。
薄さを活かした口当たりのよい飲み物の器を中心に制作します。

木工製品では不可能と思える、「紙」のような薄さが特長のKamiシリーズ。
わずか2mmという薄さは、灯りにかざすと透けてしまうくらい。
実現できるまでには、長い試行錯誤の期間がありました。

辿り着いたのは、木を円形にくり抜くための機械「木工旋盤(木工ろくろ)」の改良。
「木工旋盤」では、手で押さえた木材に刃物をあてて丸く削るのですが、
一般的には木材を押さえる手のわずかな震えで、薄く深く穴をくり抜くことができません。
そこで高橋工芸では、一年近くかけて独自で刃物から開発。
「それでも最初は失敗の連続でした」と秀寿さんは言いますが、
先代から受け継がれたろくろ技術を土台に改良を重ね、
安定して理想とする薄さを表現できるようになりました。

また、木材選びにもこだわります。
Kamiシリーズは「紙」を想像させるシャープな印象にするため、
白い木を使いたかったという秀寿さん。
「北海道で育つ白い木を探したら、カエデ、イタヤ、センが候補にあがって。
カエデとイタヤは安定供給が難しかったので、最終的にセンの木を選びました」。
欅に似た木目の美しさに定評があるセンの木は、
シンプルなKamiシリーズに深みを加えています。

木へのこだわり、つくり手としての責任

伐採されたエンジュの丸太

Caraシリーズ、Kamiシリーズの成功により、一躍有名になった高橋工芸。
1日あたり平均100点ほどを制作し、年間を通して休みはほとんどありませんが、
それでも生産が追いつかないほどです。
cotogotoでも入荷するとすぐに売り切れ、近年では海外からの需要も高まってきました。

そんな中でも、秀寿さんがずっと大事にしていることがあります。
まず、木材はなるべく北海道産にこだわること。
「北海道の山から木を預かり器をつくることで、山と人とを繋ぐ。
それが北海道の木を扱う仕事をしている、自分の使命だと感じています」。

伐採は、山が育つために必要不可欠。
適正量の木を伐採することで、若い木が育ち、山が元気になるのです。

そして預かった木はとても大切に使います。

たまったおがくず

「木を削る際に出る大量のおがくずは、かき集めて火を焚く際の燃料にしています。
端材が出たら必要としている人にあげたり、近くの銭湯に燃料として提供したり。
少しの無駄も出さないように心がけています」。

つくったものに対する想いも同じです。

真剣な眼差しの高橋さん

例えばKamiシリーズでは、推定樹齢70~80年の木を使っています。
人の一生と同じくらいの時間をかけて育った木の命を頂き、
ひとつひとつ手をかけてつくり上げた器です。
木が生まれ育った年月と同じくらい、長く使ってもらえることを秀寿さんは願います。

「もちろんずっと使っていると、
どうしても角が割れたり、塗装が剥がれたりすることがあります。
そんなときは直接工房まで商品を送ってもらえれば、無料で修理しますよ」。

壊れたら捨ててしまうのではなく、繕って大事に使い続けられるようにする。
それが、つくり手として、そして山と人とをつなぐ者としての責任。
そんな高橋工芸の姿勢が感じられます。

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