2.「型染め和紙」ができるまで

桂樹舎の型染め和紙の製作は、
大きくわけると「紙すき」と「型染め」に分かれます。
それぞれさらに細かい工程があり、各工程ごとに専属の職人が作業。
職人の数は、現在20名ほど。
各工程だいたい1人ずつというから、
1枚の型染め和紙ができるまでにはたくさんの工程があることがわかります。
型染め和紙がどのようにできるのか、その長い長い工程をひとつひとつ、
吉田さんに案内していただきました。

工程1(紙すき):楮(こうぞ)の加工

楮の白皮

▲このかんぴょうのようなものが、楮の皮の茶色い部分を削ったもの。「白皮」と呼ばれています。

和紙の原料として使うのは、楮(こうぞ)という木。
八尾町をはじめ富山で和紙づくりが起こった理由のひとつは、原料となる楮が採れたから。
繊維が長く、よく絡み合うため丈夫な和紙が出来上がります。
今でもその伝統を引き継ぎ、桂樹舎では楮で和紙づくりを行っています。

切断

▲楮は木。1mくらいの長さに切り、蒸して剥いだ皮を使用します。楮は繊維が長いのが特徴。

砂山

▲一気に50kgほどの楮の皮「白皮」を煮るための大きな釜。

剥いだ皮をやわらかくするため、1~1時間半煮て、1時間蒸らし、
その後アクを抜くため1日水にさらします。

工程2(紙すき):ちりより

ちりよりの作業

▲ちりよりには専属はいなく、この日担当していたのは、職人暦23年の村藤咲子さん。

煮てアクを抜いた楮は、人の手で丁寧に傷やごみである黒い部分を取り除きます。
1本1本目で見て手でより分けていくのは、かなりの根気が必要。
同じく和紙の原料である三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)の場合、
ちりよりは機械で行うことも可能だそう。
ところが、楮は繊維が長く機械では取り除ききれないため、
今でも人の手で行う必要があるのです。

工程3(紙すき):叩解(こうかい)

輪灯の一部

▲打解機。木の蓋をずらすと埋め込み式の桶が現れました。ここにちりよりをした楮を入れ、十字になった木で叩きます。

餅つき機のような機械「打解機」で、ちりよりした楮を1時間ほど叩き、
繊維をやわらかくほぐしていきます。

鋳肌のテスト

▲鎌のような刃が何本もついた「ビーター」という機械。

さらに「ビーター」という刃がついた機械で、
5~10分繊維が綿状になるようほぐします。
繊維をほぐすだけで違う機械を使い分ける手間に驚いていると、
「ビーターでやれば早いんだけど、あんまり長い時間やると繊維が傷むんだよね。
だから時間はかかるけど、最初は打解機でじっくりじっくり
繊維をほぐしておくことが大事なんです」と吉田さん。

4人がかりで鋳込み

▲干したかんぴょうのようだった楮が、
煮る、蒸らす、あくをぬく、ちりをとる、ほぐすという長い工程を経て、白い綿のようになりました。

この時点で、色止めも一緒に加えます。
和紙は水をよく吸うのも特徴ですが、
吸い込みすぎるとやぶけやすくなってしまいます。
型染めに耐えうる紙にするため、色止めを加えることで
ほどほどに吸い込むよう調節しているのです。

工程4(紙すき):紙料の作成

和紙は、楮、水、そして紙をすくためにはかかせない、
どろりとした粘液を混ぜ合わせた「紙料」をすいてつくります。
この粘液として、八尾和紙では古くから「トロロアオイ」という
植物の根を潰して絞ったものを使用してきました。
桂樹舎では今でもそれに習い、トロロアオイを使用しています。

トロロアオイの根

▲トロロアオイの根を潰し、粘液を絞り出します。

トロロアオイ

▲絞ったトロロアオイ。くず湯のようなとろみがあります。

「紙をすくときに、このとろみが大切なの。
とろみがあることで、楮の繊維が浮いている時間が長くなり、
繊維がきちんと広がるんだね。
さらに、繊維が浮いている間にゆする時間ができ、
ゆすることで和紙を均一な厚さに調整できるんです」と吉田さん。

攪拌

▲緑色の色紙の紙料をマンガで攪拌しているところ。
色紙は、すいてから色を染めるのではなく、紙料に絵の具を入れる先染めでつくられています。

「すき船」という長方形の箱に、楮、水、トロロアオイを入れ、
「マンガ(馬ぐわ)」という道具で攪拌すれば、紙すきに使う「紙料」の完成です。

工程5(紙すき):紙すき

桂樹舎では、昔ながらの「手すき」で1枚1枚和紙をすいています。
「後継者不足を考えて機械を導入したこともあるんだけど、
どうしても機械ですくとかたくなるし、均一になりすぎて面白くない」と吉田さん。
なるべく手すきに近くなるよう工夫してつくられた機械ではあったものの、
結局、大量注文が来る一部の紙を除いてすべて手すきに戻したのだそう。
「手すきの方が小回りが利いて、少数の注文への対応もスムーズだからね。
それにやっぱり、1枚として同じものがない個性と味わいのある紙ができるんだよね」。

手すきの一連の流れは、すき船に入った紙料を木枠にすだれを挟んだもので汲む、
ゆすって厚さを均一にする、すだれから剥がすという3ステップ。

汲む

▲紙料を木枠にすだれを挟んだもので汲みます。

竹ざお

▲桂樹舎では、工程のところどころで機械も導入されてはいるものの、昔ながらの道具が目に付きます。紙すきも木枠は、天井につるされた竹ざおに紐で吊り下げられた昔のままのスタイル。竹のしなりが一番適しているのだとか。

ゆする

▲ゆすって均一な厚さに繊維を広げます。このとき繊維同士が絡みあい、和紙が丈夫になるという作用もあります。

木枠を外す

▲3分程度で1枚完成。均一な厚さになっていないと、ここで見たときに濃淡のようにムラになってしまいます。

和紙づくりの工程において、紙すきが一番おもしろいという吉田さん。
「すくのは自分の腕次第。腕ひとつでつくっていくところが面白いんだよ。
どれくらいの厚さにするかは、経験による勘が頼り。
すけばすくだけ紙料の中の原料は薄くなってくるから、
汲む回数を多くしたりして、最初にすいた紙と最後にすいた紙を
同じ厚さにしていかないといけないからね」。

この日紙すきを担当していたのは、職人暦14年の栃山添子さん。
厚手の紙で1日約120枚、薄手だと200枚近くすくのだとか。
紙すきの難しさを尋ねてみると、
「やっぱり均一にすくことでしょうか。
ゆすり加減が難しいんです。
あまりゆすってしまうと中央が薄くなってしまうし、
汲むときにどうしても水が入ってくる衝撃で手前だけ削れてしまう。
薄い紙ほど難しくて、何度も汲むと厚くなってしまうから、
一発勝負的なところがありますね」と答えてくれました。

すだれごと移動

▲すだれごと木枠から外し移動します。この日は、体全体を使うほどの大きなサイズ「菊判」をすいていました。

すだれから紙を剥がす

▲先にすいてあった和紙の上に、今すいた和紙を直接重ねます。さっとすだれを剥がす様は、布のような安定感があります。

すいた紙を重ねたところ

▲すいた先から重ねられていく和紙。トロロアオイが入っているおかげで、濡れた状態でも破れにくく、直接重ねても紙と紙がくっついてしまうことがないのだそう。

工程6(紙すき):圧搾・乾燥

すいた紙は、重ねたまま一晩置き、翌日重しをのせて半日圧搾。
和紙が破けないよう、時間をかけゆっくりと水を切っていきます。
その後1枚1枚剥がして乾燥機に貼り付け、乾燥させます。
和紙小物などに使用する、細かなシワの入った「揉み紙」は、
乾燥機に貼る前に手で揉みます。
揉むことで繊維が折れ、味わいのある細かなシワが入る上、丈夫にもなるのです。
さらに、揉んだ後に叩くことでより強度を出します。

揉み紙

▲揉み紙を染めたもの。しわの入り具合も1枚1枚違い、それが味わいのひとつとなっています。

乾燥後は、表面に蒟蒻粉を水で溶いた蒟蒻糊を塗ります。
これでようやく、型染めにも耐えられる和紙の完成です。
ここまでで桂樹舎の型染め和紙の工程のまだ半分。
いよいよ型染めの工程へと入ります。

工程7(型染め):糊置き

糊置き

▲糊置きの担当は、職人暦2年の高田智代さん。ざっざとすばやく糊を伸ばしていきます。

「型染め」は、文字通り、模様に合わせて切り抜いた型を使って染める技法。
和紙の上に型を置き、糊を塗る「糊置き」の作業からはじまります。

ひし型紋

▲cotogotoでもお取り扱いのある「ひし形紋」。

柿渋を塗った紙でつくられた型は、色を入れたくない部分が切り抜かれていて、
そこに糊が入るようになっています。
糊は、粉糠(こぬか)と餅粉を煮てつくる昔ながらのものを使用。
季節ごとの湿度に合わせて、糊のかたさも調節しているのだとか。

ひし型紋

▲型を外すと、糊がのったところが茶色く色づきました。

ひし型紋

▲この日糊置きをしていたのは、桂樹舎で扱う中で1番大きなサイズの「菊判」。このサイズだと1日80枚が限界。

糊置きをした和紙は、
逆三角形に棒がついたかたちの木製の道具「テボ」を使って干し、一晩乾かします。

工程8(型染め):地染め

地染め担当の中根さん

▲地染め担当は、職人暦25年の大ベテラン、中根陽子さん。

糊置きの次は、ベースとなる色を染める「地染め」です。
「同じ顔料を使っても、紙にのせたときに同じ色にはならないんです。
繊維に色を染み込ませる染めならでは。
そこがプリントとは違うところですね」というのは、地染め担当の中根さん。

すると吉田さんも続けます。
「和紙は不思議でね、同じ原料で同じように100枚、200枚とすくんだけど、
出来上がった紙はやっぱり違うんだよね。
染めるときもきれいに色がのってくれる場合と
なかなかきれいにのってくれない紙が出てきたりとか」。
紙に個性が出る、その面白さが、桂樹舎が手すきにこだわる所以なのです。

刷毛で顔料を刷り込む

▲繊維にしっかり色を入れるため、刷り込むように刷毛を動かします。
一度全体に色を刷り込んだら、ムラにならないよう二度塗りします。

刷毛を使って顔料をムラなく和紙に刷り込んでいきます。
ここでも型染め和紙のための一工夫が。
顔料には、色止めとして大豆エキスが加えられ、
最後に糊を落とすため水に浸しても色が落ちないようになっているのです。

一晩乾かす

▲地染めをしたら、また一晩乾かします。

刷毛を乾かしているところ

▲色ごとに使い分けられた刷毛が並んでいる様もなんだか鮮やか。

顔料が並ぶ棚

▲顔料や道具が並べられた窓際。その奥には八尾の山の木々が見える気持ちのいい環境です。

工程9(型染め):色差し

ベースとなる地色以外の柄に筆で色をのせていく「色差し」。

一晩乾かす

▲「ひし形紋」のひし形の中心には2色の丸が交互に入ります。色ごとに筆を変え色を差していきます。

連続する模様ひとつひとつに手で色をのせていくだけでも気が遠くなりそうな作業ですが、
「地の色の上にのせていくので、たとえば同じ黄色でも、地の色に合わせて明るくしたり暗くしたり毎回調整します。
のせる色の厚みにも気を使いますね。
ボテッと厚みが出てしまうと、水で洗って糊を落とすときにはげてしまうんです」
と色差し担当の永井さん。

永井さんと吉田さん

▲色差しを担当する職人暦7年の永井恵子さんと吉田さん。吉田さんの気さくなお人柄もあってか、職人さんたちとの会話もフランク。からりと明るい工房の雰囲気は、窓が大きく日がさんさんと入ってくるからだけではなさそうです。

柄によって使う筆も差し方も変えるのだとか。
1枚1枚どころか、1柄1柄手で差していくことで、
出来上がった型染め和紙は、ひとつとして同じもののない和紙になるのです。

色差ししたものも、一晩置いて乾かします。

工程10(型染め):水元(みずもと)

色がすべて入った和紙は、最後に糊を落とす「水元」へと進みます。

糊が流れて柄が現れる瞬間

▲糊が流れて柄が現れる瞬間。「ここが一番きれいな瞬間だね」と吉田さん。

水を溜めた水槽に、色差しをして一晩乾かした和紙をざぶんとつけてしまいます。
そのまま30~40分ほどつけたままにすると、糊がふやけてくるのだとか。
このとき染めに使った顔料は、色止めとして入っている大豆エキスのおかげで
色が落ちてしまうことはありません。

水元担当の井本さん

▲水元担当は、職人暦19年の井本世津子さん。手で押すように糊を落としていきます。

糊がきちんととれたかは、触って判断。
こすりすぎないよう、でもしっかり糊を落とすのには
経験により培われた塩梅が必要なのだとか。
きれいな水にさらしてから、水気を切って干していきます。
干してからの乾燥時間は、季節ごとの湿度により変わるのだとか。
夏場でも湿度が高いためストーブを焚いています。

乾燥

▲干されている姿は、和紙というよりまるで布のよう。

特注の紙挟み

▲ここでも昔からの道具が活躍していました。和紙を傷つけず、片手でも簡単に取り外しできる特殊な球状の紙挟み。

楮の加工からはじまり、紙すき、型染めと
すいては乾かし、染めては乾かしを
何度も何度も繰り返しながら、ようやく出来上がる型染め和紙。
たくさんの職人の手を経ることで、
どんどんどんどんその紙に個性が生まれていきます。
桂樹舎の型染め和紙が人を惹きつけるのは、
ひとつとして同じものがない大らかさと、その中に手跡のぬくもりが見えるから。
長い長い工程を見せていただくうちに、そんな確信へとたどり着いたのでした。

出来上がった型染め和紙は、和紙製品に加工され、
お客様のもとへと送られていきます。

<< 前のページへ | 次のページへ >>

ご利用ガイド