RHYTHMOSの工房を訪ねて

3. 「Zip L」ができるまで

すべて手仕事で仕上げられる、RHYTHMOSのレザーアイテム。
代表作「Zip L」ができるまでを見せてもらいました。

工程1 仕入れ

牛革

▲RHYTHMOSが仕入れている、色とりどりの革。
国産が中心ですが産地を問わず、質で選んでいます。

RHYTHMOSが使う革は、そのほとんどが牛の皮。
食肉産業の副産物として生じたものです。
そもそも、「皮」と「革」という言葉には大きな違いがあると言います。
「『鞣し(なめし)』という言葉を聞いた事があると思いますが、
そのままでは腐ってしまう動物の皮膚を、
腐らない丈夫で安定した素材へ変えること、
『皮』から『革』へ加工するのが『鞣し』なんです」。

この鞣しの工程を行うのが、「タンナー」と呼ばれる加工業者。
鞣しの製法には大きく2種類あり、
アカシアなど植物由来のタンニンを用いる伝統的な製法と、
化学薬品「クロム」を用いた近代的な製法です。

RHYTHMOSで仕入れるのは、
植物由来のタンニンで鞣した革「ヌメ革」のみ。
クロムで鞣す製法は手間や時間がかからず、
傷つきにくい丈夫な革をつくれますが、
ツヤが生まれたり色が濃くなっていくなどの
美しい経年変化がありません。
一方のヌメ革は傷つきやすい、硬いなどの難点はありますが、
自然な風合いを活かして仕上げられるため、
牛一体一体の個性や生きていた痕跡を感じられるのです。


長年使ったZip

▲永年使用された「Zip L」。経年変化は「ヌメ革」ならではの楽しみです。

鞣した革は、様々な色に染色された状態で仕入れます。

工程2 裏面処理

はじめに、革の毛羽立ちを抑えたり強度を上げるため、
「裏面処理」と呼ばれる作業を行います。
革はロール状に丸めて納品されるので、巻き癖を直す効果もあります。

裏面処理

▲磨き専用の木の道具を手にひたすら磨き続けると、革がピンと真っ直ぐになってきました。

専用の道具を使って繊維の向きに沿って磨きます。
はじめはパサついていた裏面全体が、滑らかに光沢を放つようになりました。

工程3 裁断

裁断

▲革の表面をよく見ると、薄っすらと線が引かれているのがわかります。
これが裁断するときのガイドラインとなります。

革の用意が整ったら、必要なパーツのかたちに裁断します。
RHYTHMOSでは手で1つずつ裁断する「手裁ち(てだち)」という手法が基本。
定番商品など同じものをたくさんつくるときには、
抜き型とハンドプレス機を使って裁断します。

「普通、手裁ちの場合は型紙を当てて裁断するんですが、
僕は型紙は使いません」と言いながら、
飯伏さんは定規を革にあてて、すらすらとパーツのかたちを描きます。
すべてのパーツのサイズが頭に入っているからこそできる技です。

革包丁

▲革包丁はヘラのような特殊なかたちで、頭の部分が刃になっています。

革のパーツ

▲手裁ちで裁断されたパーツ。

そして「革包丁」と呼ばれる革細工用の刃物に持ち替え、裁断していきます。
「革を少しでも無駄にしないように考えてパーツを取るのはもちろん、
繊維の向きや革による個体差を見極めて、
パーツごとに適した位置で裁断できるかが職人の腕の見せ所ですね」と飯伏さん。
さらには、傷やシワが目立つ部分は内側のパーツになるようになど、
考えなければいけないことは山ほどあります。

工程4 各パーツの処理

コバ

▲処理前の革の切り口「コバ」。毛羽立ちが見られます。

パーツのかたちができたら、それぞれのパーツを整えます。
その1つが「コバ処理」。
「コバ」と呼ばれる革の切り口を磨いて滑らかにする作業を行います。
財布は手で持って使うものなので肌触りのよさは重要と考え、
手に触れるところはすべて磨きます。

ルーター

▲「スリッカー」という道具をコバに当てて磨きます。コバ磨きは革の状態に合わせて、やすりなど様々な道具を用います。

コバ処理

▲下が処理前、上が処理後。はじめはがさついていたコバが滑らかに丸みをおび、ツヤも生まれました。

液体の糊をコバに塗った後、
「スリッカー」と呼ばれる工具をコバに当てて、滑らかに仕上げます。
隅々まで丁寧に磨いたら、塗膜としてもう一度糊を塗って完成です。
この工程をすべてのパーツのコバにくまなく行います。

革包丁

▲革包丁で細かく余分な部分を切ります。ずれと言っても、目を凝らさないとわからないような微々たるものですが、飯伏さんは決して見逃しません。

へり落とし

▲「へり落とし」と呼ばれる道具で、コバの角(へり)を落とします。

コバ処理のほかに、ファスナーを組み立てる作業も。
ファスナーの片端は、2枚の同じ革のパーツで挟んでいます。
ただ、同じパーツでも表裏で2枚を重ねると微妙にずれが生じてしまうそう。
そのため、ぴったり合うように革包丁で余分なところを裁ち合わせます。
「実はこの作業が一番難しいんです。
下手すると、反対にかたちが崩れちゃうこともありますから」と呟きながら、
黙々と小さなずれを整えます。
そしてコバの表面をやすりがけした上で、角のエッジを落として滑らかに仕上げます。

目打ち

▲左手に持っているのが金属製の「目打ち」。右手で持ったハンマーで目打ちのお尻を叩き、穴を開けます。

アキヒロジンさんのハンマー

▲ハンマーの持ち手は、同郷の木工作家・アキヒロジンさんにつくってもらったオリジナル。

次に、縫い合わせる作業へ。
革はそのままでは針が通らないので、「目打ち」と呼ばれる道具で先に穴を開けます。
直線の部分は一度に複数の穴が開く目打ちで、
カーブは1つ穴の目打ちでなど、道具を使い分けながら
一直線上に、かつ均等に穴を開けます。

蝋引き

▲蜜蝋に糸を当てて、蝋を付着させます。

穴を開けたら、糸で縫っていきます。
RHYTHMOSでは天然繊維のなかでも強度のある麻糸や
特殊加工されたナイロン製の糸など、
用途に応じて数種類の糸を使い分けています。

糸は必要な長さに切って、1本ずつ蜜蝋を引いてから使います。
「蜜蝋を引くことで糸の毛羽立ちを抑え、強度を上げることができるんです。
予め蝋引きされた糸もありますが、蜜蝋が付き過ぎていることが多くて。
だから自分たちで蝋を引いて調整しています」と、
糸1本にも手間を惜しみません。

サドルステッチ

▲革の部位によってコンディションが違うため、見極めて縫い具合を微調整できるのも手縫いのよさ。

糸の両端に針を付けて、「サドルステッチ」で縫います。
一般的なサドルステッチは、革を台に固定して両手で縫いますが、
飯伏さんはなんと片手縫い。
左手を固定して台の役割を担わせ、右手だけを器用に動かして縫っていきます。
「このやり方のほうが、台に固定するよりフレキシブルに動けて速いんです」
と話しながらも、手元は流れるように動き、針が進みます。

仕上げにコバを磨いて仕上げたら、ようやくファスナーができあがりました。

工程5 組み立て

ファスナーだけでこんなに手間と時間がかかっているなんてと、
見ているだけで溜め息が出てきそうですが、
「ここまではあくまでパーツの準備で、事前にまとめてやっておくもの。
今日は『Zip』をつくるぞという日には、これからの組み立てがスタートなんです」
と言うからさらに驚きです。

しかも組み立ては、飯伏さんでも1日3~4個が限界。
財布は決して安いものではありませんが、
目の前で行われている地道すぎる作業を見ていたら、安くすら感じてきたほどです。

そんなことを考えている間も、飯伏さんの手は止まりません。
各パーツ同士を貼り合わせて乾かす。
革同士を重ねたところは、細かいずれを革包丁で切り揃える。
コバを研磨して、ヘリを落とす。
目打ちで穴を開けて、糸で縫う。
コバを磨く……。

組み立てるパーツによって異なりますが、
工程4でファスナー部分に施したような細かな作業を、
各パーツを組み立てるごとに行い、少しずつ財布のかたちができあがっていきます。

縫製

▲目打ちで穴を開けたところを、サドルステッチで縫います。

ヘリ

▲パーツ同士を貼り合わせたら、ヘリを落として滑らかに。

磨き

▲普段使うときは奥まっている小銭入れの底も、手に触れる可能性があるところは徹底的に磨きます。

縫製

▲いよいよラストスパート。ひたすら縫います。

コバ磨き

▲コバを磨くのも忘れずに。2枚の革が重なっているはずなのに、1枚に見えるほど滑らかな仕上がりです。

工程6 仕上げ

磨き


さあ、いよいよ仕上げです。
できあがった財布全体を、専用のオイルと布で磨きます。

完成!


これでようやく完成です。
全スタッフが検品して、梱包したら晴れて出荷です。

普段は飯伏さんだけではなく、2人の職人と作業を分担して、
もっと効率よく組み立てているそうですが、
時計に目をやると、組み立ての工程から完成までだけで約4時間もかかっていました。

あまりの手のかかりように呆然としていると、
「僕もはじめは心が折れそうになりました」と職人の砂原さん。
最初は3日かかって、ようやく1個できあがるほどだったそうです。

そして、まったく機械が出てこないことにも驚きます。
必要なのは、小さな道具たちと人の手。
正直、手仕事といっても、ここまで手だけに頼って
つくられているとは思っていませんでした。
「『そこまでやるの?』と思われるぐらい突き抜けたい」という
飯伏さんの言葉に脱帽です。

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