木箸しのはらの工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ3
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3.大勢から個人に向けた箸づくりへ

吉成さん

▲「昔のものを見るのは恥ずかしいですね」と、かつてつくった箸を照れながら見つめる吉成さん。

箸づくりをはじめて27年、今年で53歳になる吉成さん。
代々続く箸屋なので、吉成さん自身もずっと箸をつくり続けてきたのかと思いきや、
意外にもそうではないそう。
高校卒業後は、洋傘やベルトの卸問屋で5年ほど企画営業の仕事をしていたと言います。
「もともと家業を継ぐつもりはあまりなかったんです。
企画営業として取り引き先の店舗から出た商品の改善案や要望を聞いていると、
『自分ならこうやってつくるな』とつくりたい商品の構想が浮かびました。
でも、実際につくるのは職人さんで、
自分ではかたちにできないことにジレンマがあって。
いいものをかたちにできる職人さんが羨ましくて、憧れていました。
そこで、職人をしている父親や実家を改めて顧みて、
仕事ぶりを見たり、唐木箸のことを知って
自分もいい箸をつくってみたいと思ったのをきっかけに、この道に入りました」。

会社を辞めて家業に入り、箸づくりを学びはじめた矢先、先代であるお父様が他界。
やむなく隣町の立石で箸職人をしていた伯父様のもとで箸づくりを学びます。
「当時、まだまだ半人前だったけど、
生活をするためにもいい箸をつくらなくてはいけなかったので大変でした。
伯父の手を借りながら、なんとかやっていましたね」と、
未熟でありながら箸を世に出すことへの葛藤や、
戸惑いと失敗の連続でスムーズに作業を行えなかったことなど、
当時の苦労を振り返ります。

「自分の代に替わって、販路開拓にも力を入れました」と、吉成さん。
先代の頃は、主に神社仏閣に南天の木でつくった箸を卸していました。
箸は日本に伝わった頃から仏事に使う祭器として使われていた道具。
そして南天の箸は、「“難”を“転”じて福となす」といわれ、
神社仏閣では、縁起物としてお正月時期になると多く売られていました。
「父は年末年始の繁忙期だと1万膳も卸していたんですよ。
自分にはその生産量は真似できないな、と思って」と、
神社仏閣用に箸をつくることを止めます。
さらに、「南天の箸は胴張りのかたちだけと決まっていたので、
いろんなかたちの箸にもチャレンジしてみたい」と、箸のかたちも独自のものに。
これからは、より使い心地のいい箸が求められる時代が来ると考え、
一人一人に合うような多様な箸づくりにシフトするのです。

新しい卸し先を見つけるときには、企画営業をしていた経験が役に立ちます。
卸し先を見つけるためにいくつもの会社に飛び込み営業をし、熱心に自分の箸を売り込みます。
「一番よかったのは売り先を自分で考えられたこと。
自分が望む価格や生産スピードを考えて卸し先を選び、
納得しながら箸をつくり、商品を提供できる状態を整えました」。

自作の塗装道具

▲塗装の工程で登場した、自作の道具。箸の太さやかたちに合わせて、箸を通す穴の大きさが異なるゴムを張り替えるなど、自ら学んだ技術を余すことなく活用しています。

他にも、箸の扱いが手軽になるようウレタン塗装にも挑戦。
「私の代から塗装をはじめたので、実はお見せした塗装道具はすべて自作なんですよ」と、
塗装液を入れる箱状の道具も、箸を乾かす台もすべて吉成さんのお手製。
飛び込みで、漆を塗る職人である塗師(ぬりし)の元を訪れ、
技術や道具について教わりました。
使い心地のいい箸をつくるため、技術を高めつつ、新しい技法も柔軟に取り入れる。
箸づくりに対する、吉成さんのひたむきな姿勢がうかがえます。

cotogotoオリジナル木箸の誕生

cotogotoオリジナルの八角箸

▲cotogotoオリジナルの「八角箸」は全3種類。八角形の凛とした上品な佇まいが魅力です。写真左の左から「黒檀」、「鉄木」、「山桜」。
写真右はどちらも「鉄木」を使用。

そんな吉成さんに、既存の「八角箸」を食い先が角ばっている「先角」にアレンジして、
cotogotoオリジナルとしてつくっていただきました。
先角は、食い先が角ばっていることで滑りやすい食材でもつかみやすく、
魚の骨など小さいものもつまみやすいかたち。
全体のかたちは末広がりで縁起がいいことから、八角形でお願いしました。

八角箸の鉋がけ

▲「八角箸」をつくるため一面ずつ鉋をかけているところ。箸を固定し、鉋とやすりをかける作業台は、吉成さんの自作。

  • 鉋

    ▲箸によって使う鉋も変えています。

  • 八角箸のやすりがけ

    ▲鉋の後は、やすりで一面ずつ磨くことで滑らかな手触りになります。

「八角箸」のように多くの面が連なる箸は、
「天削丸の木箸」で使う「胴張り」のかたちからだと、
面が捉えにくく、きれいに鉋(かんな)をかけられないため、
胴のふくらみがない四角形から一面ずつ削ってつくります。
自作の作業台に向かって一本一本一面ずつ削っていく吉成さんの手もとからは、
「シュッシュッ」と小気味いい音が聞こえてきます。
最後に一面ずつやすりをかけると、なんとも滑らかな手触りの「八角箸」が完成。

八角箸

▲先が角ばっている先角だから、豆などの滑りやすい食材でもストレスなくつまめます。

八角形は丸に近くて手に馴染みやすく、当たりがやわらかいため、握りやすいのがポイント。
持ち手のどの面を持っても、指にぴたっと接するので安定して握れる上、
面があることで、箸を置いてもコロコロ転がってしまうことはありません。
先は角ばった先角になっているので、
豆や麺類などすべりやすい食材でもストレスなく食べることができます。
佇まいの美しい、使い心地も抜群な箸が誕生しました。


これから求められる箸

使い心地のいい箸への探求心が人一倍強い吉成さん。
よりよい箸をつくるため、
多くの人の意見を取り入れていたら、
試作は数えきれないほどになっていたと言います。
その一部を見せていただくと、木材の違いやかたち、太さ、
長さ、塗りの方法までさまざま。
「今は、cotogotoオリジナルにも施した
『先角』というかたちにこだわっています。
小さく、滑りやすいものでもストレスを感じない
抜群のつかみやすさなんです」。

試作

▲これまでの試作の一部。木材や塗り方、かたちなどさまざまで、試行錯誤の様子がうかがえます。



「食材をつかみにくいとストレスを感じて、箸を持っている手を意識してしまうもの。
僕は使い心地がよすぎて、手を意識しなくなるくらいの箸をつくっていきたいです」と、
目指す箸の在り方を語る吉成さん。
一人でも多くの人が美味しく、存分に食事を楽しむ。
それを箸一膳で実現しようというのは、なんだかすごいことのように感じますが、
日本の食事に欠かせない道具ですから、それだけの力があっても不思議ではありません。
そんな食卓の名脇役としての箸を目指して、ひたむきに箸づくりに向き合う吉成さん。
これからも絶えず試行錯誤を続け、生み出されていく箸が
私たちの食卓でどんな活躍をしてくれるのか楽しみで仕方ありません。

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