年末年始の家しごと
師走に入ると、お正月に向けての準備をはじめる時期。
大掃除や正月飾り、お正月にいただく料理など
日本に古くから伝わる年末年始のさまざまな行事。
これらはどれも、新しい年の豊作や、子孫繁栄をもたらしてくれる
「年神様(としがみさま)」を迎えるためのもの。
それぞれのしきたりには一つ一つ意味が込められています。
年末年始の行事の由来や意味を知って、
その本質を、できることから取り入れることで、
さらに清々しく、めでたく新年を迎えられるでしょう。
そしてまた、日本人が昔から大切にしてきた、
自然や神様への感謝の気持ちを見つけるきっかけにもなるはずです。
年末年始の
家しごとカレンダー
旧暦の12月13日は、江戸時代初期までの暦では「鬼の日」とされ、
婚礼を除きすべてのことが吉とされる日です。
この日は正月準備をはじめるのに最適の日とされ、「正月事始め」と呼ばれてきました。
明治時代に旧暦から現在の新暦に変わっても、
正月事始めの日付はそのまま引き継がれています。
昔からこの日には、新しい年神様を迎えるために
1年の汚れを払う行事が行われてきました。
かつては火を焚くいろりの1年の汚れを払う
「煤払い(すすはらい)」がこれにあたりましたが、
現代では「大掃除」というかたちで暮れ近くに行うように変わってきています。
神棚や仏壇がある家では、掃除をこの日に済ませ、
新年を迎える事始めとしてみるのもいいでしょう。
お正月に向けて年末から飾る「正月飾り」。
それぞれに年神様を迎えるための大切な意味があります。
「鏡餅」は年神様にお供えするものであり、
「しめ飾り」は家に不浄のものが入らないようにするために飾り、
「門松」は年神様がやって来る目印となります。
正月飾りは、飾るタイミングにも縁起をかつぎます。
「正月事始め」である12月13日以降から飾りはじめ、
遅くとも12月28日までには飾るようにしましょう。
作業が残った場合、29日は「二重苦」を連想させることから避け、30日に行います。
大晦日に飾るのは「一夜飾り」といって飾り物の準備に向かないとされています。
代表的な正月飾り
鏡餅
大小の丸い餅を重ね、ご神体を表しているともされる鏡餅は、年神様への供え物です。
三方(さんぽう)と呼ばれる台にのせ、「代々」家が続くという語呂合わせから橙(だいだい)をのせ、「よろこぶ」を意味する昆布、裏が白いことから「心に裏がなく清廉潔白」を意味する裏白(うらじろ)というシダ植物などを添えます。
床の間などに飾るのが一般的とされますが、床の間に限らず、家の中の思い思いの場所にお供えしましょう。
近年では、毎年使えてデザインも多彩な磁器や木製などの鏡餅の置き飾りも人気があります。
しめ飾り
神棚や神社などに年中飾られている「しめ縄」には、周囲のけがれを除いて神様の場所をつくる意味があります。
正月に飾る「しめ飾り」は、しめ縄に縁起のよい飾りをつけたものです。これは、年神様を迎えるめでたい気持ちと、飢えることがないようにとの祈願を表しているといわれています。
お正月の間、家に不浄のものが入らないように、門や玄関ドアの正面上部など、家の入り口の他、火の神の入り口である台所や、水の神の入り口である水道などに飾ります。
しめ飾りを簡略化し小ぶりにした「輪飾り」なら、狭い場所にも気軽に飾ることができます。
門松
年神様は、空を飛んで家々にやって来ると考えられています。そのため、年神様を迎える目印になるのが、家の門に立った門松です。
門松の形式は地域によってさまざまですが、3本の竹の根元を松で囲み、その周りをわらなどで編まれた筵(むしろ)で囲んだものが一般的。
一年中葉を落とさない常緑樹の松も縁起がよいとされ、正月飾りによく使われます。
干支飾り
干支の置物は、十二支の動物にあやかってつくられたものです。
十二支は、年ごとに当てはめた12種類の動物の呼び名で、12年で一周します。12の漢字に動物を当てはめ、子(ね=ねずみ)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う=うさぎ)、辰(たつ=龍)、巳(み=へび)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(とり=にわとり)、戌(いぬ)、亥(い=いのしし)という名前がつけられました。
その年の干支を飾ることで、1年を通して「家内安全・商売繁盛」をもたらしてくれるといわれています。
お札やお守りのように、1年中飾って楽しむことができます。
日本人は古くから動物に宿る神秘的な力を信じてきました。この信仰と十二支とが結びつき、その年の干支にちなんだ動物の置物を飾る習わしになったといわれています。
華やかなだけでなく、正月三が日、水仕事を控えられるようにと、
日持ちする味つけにも工夫がこらされたおせち料理。
その名前の元となったのは、「お節句(おせちく)」と呼ばれる、神様に供える料理です。
年神様に供えた料理のおさがりをいただくことで、力を授かることができるといわれています。
本来、元日と五節句(※)にいただくものでしたが、
最も大切な正月の膳を「おせち」というようになりました。
「めでたさを重ねる」という意味で、料理は重箱に詰めて重ねます。
正式には五段重を用いますが、最近では多くても三段重が主流となっています。
また、一段あたりに詰める食材は、縁起のよい「陽数」と呼ばれる
五品、七品、九品といった奇数で盛りつけます。
中味には、縁起を担いだものをつくるのが特徴で、
食材にはそれぞれ意味が込められています。
欠かせないとされるのが、「三つ肴(みつざかな)」と呼ばれる祝い肴の三種です。
「まめに働ける」ことを願う「黒豆」、
卵の数が多く子孫繁栄の願いが込められた「数の子」、
肥料にしたら豊作になったという説から「田作り」と呼ばれるごまめの三つ。
関西ではごまめの代わりに、豊作のときにやって来る
タンチョウに似ているとされる「たたきごぼう」を入れる地域が多いようです。
▼おせちの一つ一つの食材に込められた意味や、アレンジレシピをご紹介
※五節供(五節句):人日(じんじつ・1月7日/七草の節句)、上巳(じょうし・3月3日/桃の節句)、端午(たんご・5月5日)、七夕(しちせき・7月7日)、重陽(ちょうよう・9月9日/菊の節句)の5つの季節の節目のこと。
大晦日の夜にいただく年越し蕎麦。
長く伸ばして細く切る蕎麦を、「寿命が細く長くあってほしい」という
健康長寿の縁起を担いで食べられるようになったといわれています。
また年越し蕎麦を食べる風習は、江戸時代中期以降からはじまったとされ、
月末に忙しい商家が夜遅くに蕎麦を食べる習慣から生まれたと考えられています。
年神様を迎え新年を祝うお正月の最初の日である元日。
元日の朝には、お祝いの食卓の前に家族揃って、新年を祝います。
おせちとともにいただくのが、「お屠蘇(おとそ)」と「お雑煮」です。
正月料理のしきたり
お屠蘇
山椒、ニッキ、防風(セリ科の多年草)など香りの強い薬草をあわせた「屠蘇散(とそさん)」を日本酒かみりんに浸したもの。屠蘇散は薬局や酒屋、スーパーなどで手に入ります。
平安時代から続く習わしで、もともとは中国から伝わったものだとか。
屠蘇とは「鬼気を払い、人魂を蘇らせる」という意味で、1年の邪気を払うことと、長寿への願いが込められています。
お雑煮
地域によって材料やつくり方はさまざまで、関東ではすまし汁に焼いた四角い切り餅、関西では白味噌仕立てで丸餅を入れるのが一般的なようです。
もともとは、年神様にお供えした餅を野菜とともに煮込んで食べたのがはじまりだとか。
お雑煮をいただくことには、神様と一緒に食事をする大切な儀式という意味合いがあります。
また、元日の朝に汲み上げた水である「若水(わかみず)」と、その年はじめての火でつくるのが習わしとされています。
▼お雑煮のさまざまなレシピをご紹介
祝い箸
正月三が日の食事には、箸の両端が細くなっている「祝い箸」を使います。
片方は人、片方は神様のために細くなっていて、神様と一緒に食事をいただくという意味が込められています。
伝統的な習わしでは、大晦日に家長が家族の名前をそれぞれ箸袋に書き、神棚に供えるとされています。また、元日から松の内(1月7日や、地域によっては15日)まで、同じ箸を自分で洗って使い続けます。
Column一年の無病息災を願う「大福茶」
お茶にもお正月のお茶、「大福茶(おおぶくちゃ)」があります。
お正月に、1年の無病息災を祈っていただく、縁起のよいお茶です。
地域や茶店により中身はさまざまです。
その起源は平安時代までさかのぼり、都に疫病が流行したときに、
ある僧がお茶によって人々を救ったことにはじまります。
それにあやかり、時の天皇が毎年元日にそのお茶を服するようになり、
これを「王服茶(皇服茶)」と呼ぶように。
その後、幸福の福の文字を当て「大福茶」となったそうです。
▼茶葉の量やお湯の温度など、玄米茶ならではのコツをご紹介
1月7日は、五節句の一つである「人日(じんじつ)の節句」。
この日の朝には「七草粥」をいただいてお祝いをするのが習わしです。
野に咲く若菜を食し、新しい生命力をいただくことで、無病息災と長寿を願います。
七草粥は、青菜が少ない冬の時期にビタミンを取り入れることができ、
また、正月のごちそうで疲れた胃腸を休ませるのにも都合がよく、
理屈にかなった古くからの知恵なのです。
春の七草
芹(せり)
独特の香りが食欲をそそります。歯ごたえも好まれています。
薺(なずな)
ペンペン草とも呼ばれます。薬用にされることもあり、
利尿、止血、解熱作用があるといわれています。
御形(ごぎょう)
ハハコグサの別称。喉の痛みや咳を和らげるといわれています。
繁縷(はこべら)
ハコベの別称。山野に自生する越年草で、利尿作用があるといわれています。
仏の座(ほとけのざ)
コオニタビラコの別称。田など湿地に自生します。
胃の健康を促すといわれています。
菘(すずな)
かぶのことです。消化促進作用があるといわれています。
蘿蔔(すずしろ)
大根のことです。消化促進、風邪予防によいといわれています。
鏡開き
年神様に供えていた鏡餅をお雑煮やお汁粉にして食べ、一家の円満と繁栄を願う習わしです。
餅には稲の霊が宿るため、食べると力を得られると考えられてきました。
また、年神様へ供えた鏡餅をいただくことで、年神様の霊力を得られるとされています。
鏡餅は、刃物で切るのではなく、木槌などの槌(つち)を使って割ります。
餅が乾燥してひび割れているなら、手で割り開くのもよいでしょう。
これは、刃物は切腹を連想させるため縁起がよくないということからはじまった風習です。
また、「切る」は忌み言葉のため、「開く」という、
末広がりにも通じる縁起を担ぐ「鏡開き」という呼び方が広まりました。
どんど焼き(左義長)
元日から1月7日までを「松の内」といい(地域によっては1月15日)、
飾りはその最終日である7日に取り外す地域が多いようです。
役目を終えたしめ飾りや門松は、1月15日頃に神社などで行われる
「左義長(さぎちょう)」や「どんど焼き」と呼ばれる火祭りで、
火にくべるのが習わしです。
1月15日は、旧暦ではその年はじめての満月の日に当たります。
満月をめでたいものとする時代の名残りから、元日を中心とする「大正月」に対して、
この日は「小正月」と呼び、その縁起のいい日に火祭りを行う慣習となりました。
左義長の呼び名は「どんど焼き」をはじめ、地域によってさまざま。
14日の夜、もしくは15日の朝から火を焚きはじめ、
前年のお札や、しめ飾り、門松、書き初めなどを火にくべ、
無病息災と五穀豊穣を祈ります。
その煙にのって年神様が空へ帰るとされています。
また、その火で焼いた餅を食べると、その年の厄から逃れられるともいわれています。
左義長の由来は平安時代までさかのぼります。
宮中で行われていた、扇や短冊を燃やしながら陰陽師が謡いはやすという、
悪魔を払う儀式が元とされています。
どんど焼きに出すことができない場合は、分別してごみとして処分しましょう。
ごみにする際も、塩をかけて清めれば、年神様への感謝の気持ちを込めることができます。
参考文献:
新谷直紀『季節の行事と日本のしきたり事典ミニ』
新谷直紀『和ごよみと四季の暮らし』