すすむ屋茶店に教えてもらう 美味しい日本茶の淹れ方 | 暮らしの読みもの | cotogoto コトゴト - ページ3

すすむ屋茶店に教えてもらう 美味しい日本茶の淹れ方

3. すすむ屋茶店のこと


すすむ屋茶店のあゆみ

今回お茶の淹れ方について教えてくれたのは、
鹿児島県を拠点に、独自の基準で茶葉を選定・焙煎している
「すすむ屋茶店」の代表、新原光太郎(しんばらこうたろう)さん。



▲「すすむ屋茶店」代表の新原光太郎(しんばらこうたろう)さん。

すすむ屋茶店は新原さんの曽祖父の代から卸売りでお茶を販売している製茶卸問屋です。
そこから派生して、多くの人に美味しいお茶を届けたいという想いから、
2012年に小売店である「鹿児島茶・知覧茶専門店 すすむ屋茶店」が誕生。
鹿児島県内に留まらず、今や東京など全国に
日々、お茶本来の美味しさを伝え続けています。

新原さんがお茶の世界に足を踏み入れたのは24歳のとき。
代表だったお父様が倒れてしまい、
東京でサラリーマンをしていた新原さんが急遽後を継ぐことに。
「お茶屋の息子だからといって、お茶に詳しいわけではなく、
後を継ぐとも考えていなかったので、まさに青天の霹靂でしたね。
自宅と工場は離れていたし、家業に関してはまったく知らなかったんです。
強いて言うなら、一般の家庭より少しお茶が出てくる頻度が高い程度で、
父親もお茶の味を覚えろ、なんてことを言ってくる人ではなかったですしね」。
新原さんは社員の助けを借りつつ、製茶卸問屋の代表としてお茶の道へ足を踏み入れます。


▲3種類それぞれ違う品種の茶葉をブレンドした煎茶。火入れの時間や強さも異なり、一見しただけでは茶葉の違いはなかなかわかりません。左から「浅蒸し煎茶」、「深蒸し煎茶」、「中蒸し煎茶」。

代表になって一番大変だったのは、茶葉の買いつけ。
茶葉は一度の仕入れで一年分を購入するため、相当の量を購入します。
いい茶葉を逃したり、質のよくない茶葉を大量に購入してしまうことがあったり、
最初は失敗の連続だったといいます。
「茶葉の違いが全然わからなかったですね。
違う品種が並んでいるはずなのに、全部同じに見えるんですよ」と
茶葉の目利きに苦戦した当時を語る新原さん。
一般的に茶葉の目利きを任されるのは、50歳を越えてから。
大切な役割だからこそ、任されるのは早くても40歳を越えてからだそう。

前途多難だった新原さんですが、
元来の明るく、ポジティブな性格もあって、めげずにお茶と向き合います。
「自分は知識不足だったので、茶葉のことを知るために、
いろんな種類のお茶をひだすら飲み比べました。
仕入れのときも及び腰になるんじゃなくて、
自分がいいと思ったものを、とりあえず買ってみましたね。
失敗も多かったですが、そのおかげで早い段階で身につけることができたと思います」。

3~4年経つと茶葉の違いもだいぶわかるようになり、
仕入れの目利きも楽しめるようになっていったそう。
茶葉の目利きというお茶屋にとって重大な役割を20代で経験できたのは、
この先の新原さんが進む道を決定づけるきっかけにもなりました。

すすむ屋茶店のオリジナリティ


▲すすむ屋茶店が保有する茶畑。青々とした茶葉の緑がまぶしいです。

すすむ屋茶店のある鹿児島県は、
長年茶葉の生産量1位を誇ってきた静岡県を追い抜くのでは、と
噂されている注目の産地。
静岡県との違いは、お茶のバリエーションの豊かさだ、と
新原さんは教えてくれました。
「鹿児島県は静岡県に比べて後発の産地なので、
静岡県にないものをつくる、という意識が最初から高かったんです。
だから、静岡県のお茶に甘みが足りなかったら、甘みのあるお茶をつくり、
渋味が足りなかったら、渋味がより感じられるお茶をつくり、というように
どんどんお茶の種類が増えていったんです」。

他にも両県のお茶の違いは、愛知県を境に関東圏と関西圏でわけられるといいます。
静岡県を含む関東圏は、お茶の色が茶色く、コクのある味わいが特徴。
対して鹿児島県を含む関西圏では、色が濃い緑色をしていて、お茶の甘みを感じられます。
関東圏は濃い味やコク、塩味が強い味わいを好み、
関西圏では薄口や甘い味つけを好むといった、地域や歴史的背景が関係あるのかもしれません。

他にも後発の産地である鹿児島県に比べて、
古くからお茶の産地として知られている静岡県の生産者は高齢の方が大多数。
広大な茶畑で茶を摘み、膨大な量の茶葉を焙煎するのは重労働です。
そのため、静岡県では生産者の高齢化によって
閉めてしまうお茶屋さんも多いのだとか。
また、最近では茶葉本来の甘みが好まれる傾向があることもあることから、
鹿児島県のお茶が注目を集め、生産量を上げている理由になっているようです。


▲cotogotoでは、緑茶の「こくまろ」、「ほうじ茶」、「紅茶」を取り扱っています。

そんな注目の産地である鹿児島県に工場を構えるすすむ屋茶店では、
お茶それぞれの特性を生かしたお茶づくりをしています。
「多くの人に受け入れられるには、
茶葉の個性を抑えて飲みやすく、バランスのいいものをつくるのが一番。
だけどそれだと、全部似たり寄ったりの味わいになってしまって
面白みに欠けたり、深いところでお茶の楽しさを感じられないと思ったんです」と新原さん。
茶葉ごとに個性があり、それぞれの美味しさがある。
それを多くのお茶を飲み比べたことで知った新原さんは、
茶葉の個性を前面に出す方法で、美味しいお茶を提案しています。

茶葉の個性を出すために、
他店とすすむ屋茶店との大きな違いは焙煎温度が浅い(低い)こと。
焙煎温度が浅いことで個性が出やすく、
火入れの時間が短い分フレッシュな状態に近いので、
飲んだ瞬間に香りがふわっと広がって甘みを感じられ、
お茶の色が緑鮮やかになるのです。
使用している茶葉の品種もマイナーな品種が多く、
それぞれのお茶の味わいを楽しめるように工夫されています。


▲2016年にオープンした自由が丘店の内観。定番商品をはじめ、季節の茶葉やすすむ屋茶店オリジナルの茶器などさまざまな種類が並びます。


▲自由が丘の店舗は地元の人が多く訪れ、和やかな雰囲気。緑の地に白色の文字で書かれた看板が目印です。

お茶本来の美味しさをより多くの人に楽しんでもらうため、
製茶卸問屋だったすすむ屋茶店は、2012年に小売店をスタートさせます。
「一般の人たちの生活の中に、お茶文化を根づかせたいと思ったんです。
そのためには、まず店舗を出して、身近に感じてもらうのが一番だな、と」と新原さん。
「お茶文化」と聞くと、京都のお抹茶など文化人のための高級なもの、という
印象がありますが、新原さんが考える「お茶文化」は違います。
暮らしの中で、美味しいお茶を味わえるひと時が日常的にあり、
お茶の時間が楽しく、充実したものになるような
そんな文化を根づかせようと奮闘しているのです。
つくる茶葉も日々に寄り添った味わいを大切にしつつ、
ただの飲み物といった消耗品というわけではなく、
味わいを深く感じられるようなこだわりのあるものを意識しています。

そんな想いは店舗にも反映されています。
道具を持っていなくても常に美味しいお茶を体験できるように
必ず喫茶スペースを完備しているのです。
美味しいお茶に触れ合える接点をなるべく増やそうと、喫茶スペースをはじめ、
SNSでの発信やワークショップなど多くの試行錯誤を行っています。

「美味しいから、飲む。
そんなふうに肩ひじ張らずにお茶を楽しんでもらえたらと思っています。
今回ご紹介した淹れ方の工程も簡単なので、
日本茶を淹れる、飲むということを気軽に考えてほしいですね」。
日本にこれまで当たり前のようにあった日本茶。
すすむ屋茶店のお茶を飲めば、お茶の時間がより充実したものになるはずです。




協力・参照

すすむ屋茶店

日本茶マガジン

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