FUTAGAMIの工房を訪ねて | 工房訪問 | cotogoto コトゴト - ページ3
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3.“いいもの”をつくるために

ショールームの棚

ショールーム

ショールームには、FUTAGAMIのアイテムたちが、暮らしのシーンを想像できるように飾られています。

工房の中二階部分には、ショールームが。
FUTAGAMIのデザイナーである
大治将典さんがプロデュースしたスペースです。
明かりが灯るとふんわりとした光が空間を満たし、
真鍮でできたFUTAGAMIアイテムたちが、とろりと輝きはじめます。
生活用品としてデザインされたものたちが、
棚やテーブル、シンクなど、暮らしの中に馴染んでつくる世界観に
思わずうっとりしてしまいます。

FUTAGAMIに若い職人の入社希望が多いのも、
商品だけでなくブランド自体の方向性がしっかりと確立され、魅力的だから。
そして、どんなに難しいデザインでもかたちにしてしまう高い技術力があるから。
その背景には、デザイナーである大治さんとつくり手である二上さんの
お互いを信頼し、力を引き出しあう関係性があるのです。

はじまりから“超チャレンジ”

箸置き

2016年11月、cotogotoが企画した「大治将典の8つの産地仕事展」トークショーでの一場面。右から大治さん、二上さん、同じく大治さんがブランディングから関わる磁器ブランド「JICON・磁今」の今村肇さん。

大治さんと二上さんの出会いは、2008年8月。
高岡市のデザインセンターが
全国のデザイナーを対象に開催していたワークショップに
大治さんが参加していたことがきっかけでした。
「高岡のメーカーを巡る見学ツアーに二上も入れてもらっていたんです。
輪灯のほか、その頃やっていた仏具なども並べておいたら、
十数人いたデザイナーは皆、『仏具しかないんですか?』という反応でした。
そんな中大治さんだけが、『めっちゃいけてるわ!』とかいって、
すごく感動してくれて、とにかく元気だったのを覚えていますね」
と当時の大治さんの印象を、二上さんはこう語ります。

ブランド立ち上げ前、大治さんに出会う何年も前から
仏具の需要の落ち込みに危機感を抱いていた二上さん。
何か新しいことをやらなければ、やりたいと思いつつ、
何をしたらいいかわからず模索していた中、
この言葉はきっと、今まで培ってきた技術への自信と
これからの可能性を感じさせ、
二上さんを勇気付けたのではないでしょうか。

そのワークショップが終わった後、
再びデザインセンターを介して再会した大治さんに、
二上さんは想い悩んできたことを包み隠さず話しました。

こうしてタッグを組むことになったのが、2009年1月。
そして、ここからの動き方がすごいのです。
「まだ何をやるかも決まっていなかったのに、
何を思ったのか、何を焦っていたのか、
その年の6月に東京で開催予定だった
『インテリアライフスタイル』に出展したいと自分から言ったんです」
と当時を振り返って笑う二上さん。
「インテリアライフスタイル」と言えば、
ものづくりをする人にとってひとつの目標にもなるような、国際的な一大展示会。
何もないところから、それも時間はたったの半年しかないという状態では、
普通は出てこない発想かもしれません。

しかも、やろうとなって大治さんが出してきたアイデアが
「鋳肌を残す」ということでした。
「基本的に仏具は、研磨したり着色したり、つるつるピカピカが完成形。
だから、鋳肌の状態は未完成で、それを完成品にするということは、
ある意味タブーだったんです」。
最初は「え?」と思った二上さんでしたが、
「あえて大治さんがそこを推してきたということは、
今までと同じではダメなんだろうな」と覚悟を決めました。

とはいえ、今までどこもやってこなかった未知のこと。
鋳肌が受け入れられるのか、心配はつのります。
「超チャレンジ。ブランドの根本部分だから、
それがダメだったらブランドとしてアウトですからね」。
提案してきた大治さん自身、心配のあまり円形脱毛症になってしまったほど。
それでも展示の期日は迫ります。
鋳肌を残すとは言っても、完成形の答えはありません。
それを決めるのも、自分たち。
しかも、大治さんは鋳肌の仕上げ具合については、
あえて口を出さなかったといいます。
それは、真鍮という素材を一番知っているのは二上さんだから。

「さんざんつくり直しました。
できた瞬間はこれでいいと思うけれど、次の瞬間やっぱり違うとなって。
どんどん日が過ぎて行き、最後の最後までいじっていたけれど、
最後は期日が来て、もうこれでいいやって。
もしかしたら、展示会という期日がなくてもっと時間があったら、
出来上がっていなかったかもしれません」。

インテリアライフスタイル2009

「インテリアライフスタイル2009」でのFUTAGAMIのブース。

それほど追い詰められながら出展した「インテリアライフスタイル」で、
630社の中からたった5社にしか贈られないアワードを受賞。
華々しいデビューを飾ったのです。
「鋳肌を残す」というFUTAGAMIのコンセプトが間違っていなかったと、
ようやく確信できた瞬間でもありました。

つくり手の役割

「閃光」の図面

大治さんから二上さんのところへ送られてきた、「箸置き 閃光」の図面。

商品をつくるとき、まず大治さんが図面と模型を上げます。
それをもとに二上さんが型を起こし、サンプルをつくります。

「栓抜き 三日月」

月の切れ目を王冠に合わせて栓を抜く「栓抜き 三日月」。

たとえば「栓抜き 三日月」は、
最初は現在のものの内径くらいの大きさで、
厚さも倍以上あったとか。
サンプルをつくってみたら栓を抜きにくく、
5~6回つくり直してようやく今のかたちに落ち着きました。

何度修正を繰り返すことになっても、
二上さんはもくもくとつくり続けます。
大治さんが出してきたデザインに対し、一切口は挟みません。
「基本的には、大治さんが考えてこうしたいというものに対して、
どうすればつくり手として100%か、
もしくはもうちょっと上のレベルでつくれるかということに集中します」と二上さん。

「ランタンランプ 吊り型」

大治さんから図面と一緒に渡された「ランタンランプ 吊り型」の紙でできた模型。模型を見ながら、二上さんが鋳肌の表情をイメージしてサンプルをつくります。

一方、かたちは図面や模型で示されてその通りつくるけれど、
鋳肌の表情や光沢具合の指示はないのだとか。
「かたちからイメージして、
きっとこうして欲しいだろうなというのを予想してやります。
予想が当たっているときもあれば、違う場合もあります。
サンプルを大治さんの前にぱっと出したときのちょっとした表情で、
本当にいいと思っているか、ダメなのかを読み取る。それがおもしろいんです」。

大治さんはわかってギリギリにしている

「ランプシェード 星影」

明かりを灯すと、天井に星型の模様が浮かび上がる「ランプシェード 星影」。

製作途中の「ランプシェード 星影」

独特なかたちのため、どこに湯道をつけるか悩みぬいた思い出の一品。

型をつくって溶解した金属を流し込む鋳物だからこそできないかたちや、
鋳肌を残すため削れないFUTAGAMI製品だからこそ難しいことはたくさんあります。
「大治さんもそういうことは加味してデザインしているとは思うんです。
だけど、つくり手からするとかなりギリギリの線。
わかってギリギリにしているんだと思います」と二上さん。

鋳込んだばかりの「テープカッター」

一見するとなんだかわからない塊に見えますが、型から出したばかりの湯道がついた状態の「テープカッター」。厚みのある塊に均一に湯を流すのが難しいのだそう。

どんなにつくるのが難しくても、それでいいと二上さんは言います。
「つくりやすさを考慮しすぎると、普通のものになってしまうじゃないですか。
それじゃあつまらない。
だからそこは一切考えないで、純粋に表現したいかたちを出してもらって、
それを忠実に表現するのがいいんじゃないかと思っています。
どんなにややこしいものでも、
つくり手が100%そこに答えられるよう解決方法を探し出すので。
大治さんにしかできないもの、二上にしかできないものをつくりたい」。

デザイナーと伝統のコラボレーション。
高岡の街を歩いていたら、
そんな言葉に当てはまりそうな商品がたくさんありました。
そのことを伝えると、
「今までやってきたことを自分たちとは違う目線で見てもらうことで
何か新しいものができないかと、
行政も含め、高岡のいろいろなメーカーが期待していると思うんですよ。
だからわりとデザイナーを招聘したり、マッチングというのは盛ん。
でも、うまくいくかは別の話。
これを本気でやっていくんだと覚悟を決めた人の方が
うまくいくんじゃないですかね」。
その答えを聞いたとき、
二上さんのつくり手としてのストイックな姿勢や
大治さんとの向き合い方がふと腑に落ちたのです。
これが本気で腹をくくった人の在り方なんだ、と。

目指すのは、ただの“いいもの”

「デザイナーとクライアント」という言い方が
あまり好きではないという二上さん。
「大治さんは家族というか、一緒に生きて行く仲間
というかたちで関わってこれていると思うんです。
派手な方向に行ったり、
販売やビジネスの方向がメジャーな方に向かうとかは一切なくて、
自分たちの世界観をキープして、
自分たちがつくりたいものをつくるというスタンス。
そこが他のデザイナーとはぜんぜん違うところだと思います」。
実は、大治さんより二上さんは10歳以上も年上。
けれど、年齢差は関係なく対等な立場でつき合わせてもらう、
というのが大治さんの在り方だそう。
そこもいいと二上さんは言います。
そして、そんな大治さんの在り方から影響を受け、
いろいろなことを正直な目で見られるようになったのだとか。

切断

ショールームの一角にあるキッチン。よく見るとFUTAGAMIの商品以外のものも置いてあり、違和感なくひとつの空間をかたちづくっていました。

FUTAGAMIのアイテムもまた、そんな正直な目で見たときに
二上さん自身が「大好き」と思えるテイストなのだとか。
生活に自然に馴染んで、古いものと一緒にあっても違和感がないもの。
「よく、どこそこのいいものとか、伝統工芸のいいものとか
最初に形容詞がつくけれど、それはあまり好きじゃなくて。
“~の”は置いておいて、ただの“いいもの”だけでいいんじゃないですか。
“いいもの”ってなんですか、ということを考えるだけ」と二上さん。

切断

「まだまだ若輩」と自分のことを言う二上さん。たくさんの経験を積みながら、そのメンタリティを保ち続けられる理由は、「ゴールは設定していないし、いろいろやらなきゃいけないことがいっぱいあるんで」とのこと。

今後のFUTAGAMIをどうしていきたいか尋ねてみたら、
「すごく抽象的なんですけど、関わる人がすべて幸せになるようにしたい。
自分の家族やスタッフはもちろん、大治さんや取扱い店の人や、
そこのお客さんまで」という答えが返ってきました。
つくりたい商品やブランドとしての展開の仕方、クリアしたい技術など
具体的な事柄を予想していたからこそ、
この答えに、はっとさせられました。

関わる人すべてが幸せになるように……
というのは、一番シンプルで、一番直球な目標。
でも、すべてに通じる目標です。
高いデザイン力とかたちにする技術、
それがきちんと機能するデザイナーとつくり手の信頼関係。
そして、みんなを幸せにしたいという
二上さんの願いが込められているからこそ、
FUTAGAMIのアイテムが、これほど人を惹きつけるのです。

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